2013 Fiscal Year Annual Research Report
マルブランシュ哲学における形而上学と自然学との関係
Project/Area Number |
13J00754
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
橘 英希 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | マルブランシュ / 哲学史 / 科学史 |
Research Abstract |
本研究は、マルブランシュにおける形而上学と自然学の関係を問うものであるが、本年度においては、自然学を構成する諸分野のなかでもとりわけ物体衝突論に観点を絞った上で、研究課題に取り組んだ。まず17世紀前半から中盤の自然学者、例えばデカルトやホイヘンス、マリオットの著作を繙きつつ、ニュートンカ学完成以前の運動論の枠組みを概観し歴史的背景を押さえた上で、マルブランシュ衝突論の全容解明に取り組んだ。結果、衝突則の定式化において原理的法則として機能する運動量保存則、そしてそれがたどる変遷が、衝突論と形而上学との接点を探るに際して重要であることが明らかになった。 マルブランシュは衝突論研究の初期において、その原理として、同時代すでに批判の的となっていた運動量のスカラー値保存則を立て、後にこれを捨て、ベクトルとしての運動量の保存則を正しくも掲げるに至る。本研究によれば、初期の失敗は、創造論という形而上学上の理論が自然学に対して過度の干渉をなしていたことに由来する。保存則の正否は、実験という自然学内部の手続きではなく、創造論によって決せられるべきものと考えられていたのである。そしてこの失敗が後に自然学内部の理論によって乗り越えられることによって、衝突論に対する創造論の役割は縮小され、自然学は相対的な自律を獲得するに至る。 本研究の今後にとって、衝突論への着目を通して得られた以上の見解は、重要なものである。マルブランシュが天体運動論や重力論、そして光学研究を本格的に開始させるのは、自然学と形而上学の関係をめぐる以上の転回が果たされて以後のことであり、本年度の成果は、それらと形而上学との関係を今後探っていく際の立脚点となることが期待されるからである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、マルブランシュの運動論研究を遂行し、創造論との相互影響関係が明らかになったと考えている。ただし、衝突論のテクニカルな細部についてはいまだ不分明な箇所が残されており、その解明作業は今俵の研究へと持ち越される。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の核となるべきは、やはりマルブランシュのテクストの読解作業であるが、同時代に形而上学と自然学の双方において体系的な議論を展開していたデカルトやライプニッツについても理解を深め、彼らとマルブランシュの理論を戦わせながら、その強み、弱みを把握していく。 また本年9月より、フランスパリ第十大学のシュバルツ准教授のもとに研究留学することが決まっており、フランス本国でのマルブランシュ研究の成果を吸収しつつ、研究を推進していく。
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Research Products
(2 results)