Research Abstract |
本研究は視覚的な不快の生起要因を検討する。さらに, 不快を感じやすい視覚特性を持つ片頭痛患者と, 健常者を比べる。これまでに筆者は, 不快な風景画像は空間周波数の中域成分を多く含むことを示していた。本年度は, 中域成分と不快感の因果を検証するために, この成分を除去した風景画像と原画像を観察して不快を主観評価する実験を行った。同時に瞳孔径も測定した。その結果, 中域成分が画像に多く含まれると不快を増大することが, 主観評価で示された。特に患者では, 不快の増大が瞳孔径変動にも顕著に現れた。 他方, 白内障快癒後に視覚的不快を感じやすくなることや, 片頭痛が再発する可能性が指摘されており, 筆者らはこの可能性を面接や質問紙で確かめた。白内障快癒は, 生活の改善だけでなく, 視覚的不快の増大なども生じさせ得ることが示唆された。 視覚と平衡感覚の協応についても検討した。片頭痛患者が乗り物酔いしやすいという指摘から, 視覚一平衡感覚系の特異性を予想し, 運動錯視あり/なし画像の観察時の重心動揺を, 片頭痛患者と健常者とで比べた。錯視なし画像では患者と健常者の差は認められなかったが, 錯視あり画像においては, 運動錯視の残効が患者を動揺させやすいことが示唆された。 視覚と運動の協応における, 時間的一致の重要性についても検討した。違和感のない身体運動のために, 運動とその結果との時間的一致が必要である。これは四肢損傷後も感覚が残る『幻肢』にも当てはまる。幻肢のための鏡療法では, 鏡に健常肢の運動を映して幻肢に重ねると, 幻肢に運動感覚を得られ, 痛みが消えたり快くなったりする。我々は, 健常肢の運動をモニターに映す, 鏡の代替装置を用いて, 視覚と運動との時間的一致性の運動感覚への影響を調べた。映像の遅延が幻肢の運動感覚を減らすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた, 風景画像の空間周波数特性と快不快の関連について検討し, 国際会議1件と国内学会1件で成果を発表することができたから。また, 視覚と平衡感覚, 視覚と身体運動の協応についても検討を拡張し, 国内学会2件で成果を発表することができたから。
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Strategy for Future Research Activity |
まず上記の成果を原著論文にまとめる。当初の計画通り, 風景画像の空間周波数特性と意味内容とが, どのように相互作用して快不快を誘発するのかを画像処理と心理物理実験によって調べる。他方で, 視覚以外の感覚との関連を検討し始めたところ, 今後も豊富な示唆を得られる見込みがあった。そのため計画を変更して, 平衡感覚についても, 視覚的快・不快と運動錯視方向のそれぞれが重心動揺にどのように影響するかを調べる。
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