2014 Fiscal Year Annual Research Report
ベトナム阮朝社会経済史の研究-貨幣・穀物流通を中心に-
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13J01015
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
多賀 良寛 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 阮朝 / 社会経済史 / 貨幣 / 穀物 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、2014年4月から2015年3月までベトナム・ハノイで在学研究に従事した。在外研究中の受け入れ機関は、ベトナム国家大学ハノイ校のベトナム学・開発科学院である。在外研究中の主目的は、受け入れ機関におけるベトナム語研修と、各種研究機関における資料収集である。まずベトナム語研修では、主に研究に必要なコミュニケーションスキルと、文献読解のためのリーディング、現地語による論文執筆に向けてのライティングスキルの向上に取り組んだ。史料収集においては、国立第一公文書における未公刊史料の閲覧・複写を最優先課題とし、さらにハンノム研究院・国家図書館においても資料収集を行った。史料の閲覧にあたっては多くの困難が予想されたが、閲覧システムの改善もあり、実際には史料の収集は極めて順調に進んだ。史料の収集にあたってはまず19世紀前半の史料を優先して集めるという方針を取り、貨幣・穀物市場・国家による輸送システム・対外貿易・鉱産資源の開発など、多岐にわたる文書を収集した。さらにハンノム研究院においても、貨幣鋳造や税制に関連する未公刊史料の入手に成功した。ハノイにおける研究活動にとどまらず、2014年末から2015年頭にかけて、中越国境地方でフィールドワークを実施した。とくにベトナム北部山地のバッカン省において、近世ベトナム最大の銀山であった送星銀山について調査を行った。現地の郷土史家に対する聞き取りや鉱山遺跡の実地調査によって、文献史料からは得られない貴重な情報を入手することが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目標である19世紀ベトナムの社会経済史の解明に向けて、現在までのところ研究はおおむね順調に推移している。とくに平成26年度は2つ目の点において研究上の大きな発展が見られた。 一点目は一次史料の収集であり、現地の文書館において貴重な未公刊史料を大量に入手することが出来た。これらの史料には、王朝の経済政策に関する詳細な記述や、当時の市場における物価や為替レートに関する数量的データが書き記されている。新史料の発掘により、これまで以上の具体性をもって当時の社会経済のあり方を叙述することが可能となった。二点目はベトナム語運用能力の向上である。ベトナムの歴史を研究するにあたっては、基本史料である漢文の読解能力に加え、現地語文献の読解や現地研究者とのコミュニケーションのために、高レベルのベトナム語運用能力が要求される。長期滞在を利用したベトナム語のトレーニングにより、研究に必要なレベルのベトナム語運用能力を身につけることに成功した。またベトナム語を駆使して現地の研究者と密なコミュニケーションを取り、研究目的の達成に有用な多くの情報を得ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はベトナムにおける在外研究で得た成果を日本語・英語で積極的に発表するとともに、博士論文執筆に向けて、これまでの研究内容をより体系化していく。現地で収集した未公刊史料によって、これまで復元が難しかった貨幣流通量や阮朝の財政規模、米価の長期的動向に関して、ある程度まとまった数量的データを得ることができる。これらのデータをもとにして、阮朝の通貨政策や穀物政策についてより精緻な歴史像を構築していく。通貨政策については銭貨流通の統合および銀と租税・財政制度の関連について、穀物流通については首都のフエにおける米穀需給のあり方について重点的に研究を進める。 またその作業成果は、『東洋学報』『社会経済史学』『東南アジア研究』といった全国規模の学術雑誌に発表していく。研究課題のなかでもとくに進展が早い銀と租税制度の関係および銀と財政の関係について、優先的に論文を執筆する予定である。日本語による業績の発表と並行して、World economic history congressなどの国際学会において、英語によって研究成果を発信する。国際学会での発表を踏まえ、国際的なジャーナルに投稿すべく英語による論文の執筆に取り組んでいく。
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Research Products
(3 results)