2013 Fiscal Year Annual Research Report
生体膜中の脂質のダイナミクスと相互作用の解析に基づく脂質ラフトの分子基盤の解明
Project/Area Number |
13J01127
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
安田 智一 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 脂質ラフト / スフィンゴミエリン / コレステロール / 重水素固体NMR / 蛍光寿命測定 / 蛍光異方性測定 |
Research Abstract |
生体膜にはスフィンゴミエリン(SM)やコレステロール(Chol)を豊富に含む『脂質ラフト』と呼ばれるドメインが存在する。脂質ラフトの分子基盤を解明するために、構成成分である脂質分子に着目し、そのダイナミクスや相互作用を明らかにすることを研究目的とする。ラフトを原子・分子レベルで観測できる方法論が限られているため、新たな測定手法を導入し、これまでに確立した重水素固体NMRも含めてラフト観察手法の多角化を図った。そして、各種方法で得られた脂質の情報を相補的に解析し、脂質ラフトに対して統合的なアプローチを行った。 具体的には、脂質膜研究を活発に展開しているJ. P. Slotte先生(Finland, Åbo Akademi University)のもとへ留学し、新たな方法論として、合成した蛍光標識SMを用いた蛍光寿命測定や蛍光異方性測定を行った。その結果、均一と考えられる脂質膜組成において、非常に短い寿命をもつ脂質クラスターの存在が示唆された。また、膜の流動性とこれまでに重水素固体NMRで得られた脂質のダイナミクスの比較より、SM膜が温度変化に対する安定性が高いことが示された。さらに、より生体膜に近い環境でダイナミクスを解析するために、3種の重要な膜脂質であるSM、Chol、PCに着目し、重水素固体NMRを測定した。その結果、脂質膜中で分離した2つの相における各脂質のダイナミクスや分布、温度依存性を明らかにすることに成功した。 これまでの成果及び今年度得られた成果を統合的に解析することで、実際の生体膜中でSMとCholを主成分として脂質ラフトが形成される基盤になる原因が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
蛍光標識SMを化学合成し、ラフトを分子レベルで観測する新たな方法論の確立を達成した。また、方法論を多成分から構成される複雑なモデル膜に適用し、より生体膜に近い環境における脂質のダイナミクスや相互作用情報の取得に成功した。以上の成果より、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、脂質ラフトを分子レベルで観測する方法論の確立を目指す。合成した重水素標識脂質を用いて、2次元IRを適用し、重水素固体NMRでは取得できなかりた脂質のピコ秒の時間領域の運動性の取得を試みる。これによりフレキシブルなアルキル鎖の配座交換速度や構造を推定し、コレステロールの影響を明らかにする。 さらに、確立した様々な方法論を多成分から構成される複雑なモデル膜に適用することも引き続き行う。例えば、他の種類の脂質や膜貫通ペプチドを加えた膜や外葉と内葉の脂質組成が異なる非対称膜である。これにより、実際の生体膜に近い環境下の脂質分子の情報を取得し、ラフトの分子基盤へより詳しくアプローチする。
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Research Products
(2 results)