2013 Fiscal Year Annual Research Report
荷電不安定性が引き起こす非平衡膜界面の新奇構造・機能
Project/Area Number |
13J01297
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 弘明 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | 界面透過法 / 人工細胞 / 反応拡散 |
Research Abstract |
本年度は、研究計画の内容である高濃度のタンパク質溶液を封入した細胞サイズリポソームの創成を目指し、界面透過法と呼ばれる作製手法の適用を検討した。界面透過法では脂質単分子膜に覆われた油中水滴が、別の脂質単分子膜が並ぶ油水界面を透過することでリボソームが形成される。これまでに得られている予備的な成果として、界面の通過の際に多くの膜が壊れるか界面に引っかかって止まっていることがわかっているが、その透過のダイナミックな過程は未解明であった。界面透過法に適した実験条件の探索はこれまで経験的に行われてきたが、本研究で目標とする高濃度タンパク質溶液系においてはその経験則では作製効率が不十分であり、透過の詳細を理解することが必要となった。そこで、透過のダイナミクスの直接観察と数理モデル化を行った。その結果、透過のダイナミクスは液滴の変位が時間の2乗に比例する初期の速い過程と変位が時間の1/2乗に比例する終期の遅い過程の2つの動力学的過程をとっていることがわかった。さらに、その透過時間は液滴サイズに強く依存する事がわかった。現象をより深く理解するためその動力学過程の双安定系における反応拡散方程式を用いた記述を試みたところ、そのスケーリング則とサイズ依存性が同時に再現され、さらに数理モデルから示唆される別のサイズ依存性も追実験で確認することができた。また、ここで得た数理モデルからは、μmの液滴サイズ、広い引き込み領域を持つ脂質の炭化水素鎖、といった界面透過法に適した実験条件の基準が明らかになった。界面透過の動的過程の実験・考察を通じて明らかした今回の研究成果は、これまで経験則で行われてきた界面透過法の条件探索に物理化学的な判断基盤を与える初めてのものであり、今後の研究において極めて大きな役割を果たすと期待できる。この研究結果はSoft Matter誌に掲載され、論文誌の表紙に選出された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の目標は界面透過法を用いた脂質二分子膜小胞の作製の効率化を目指すというものであり、実隙に界面透過の際の液滴のダイナミクスの詳細を明らかにする研究を行い、重要な成果を得ることができた(9. 研究実績の概要参照)。また、イオン性界面活性剤の会合ゲルが引き起こす油水界面変形の系についても、順調に実験が進み、知見を蓄積している。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに得られた界面透過法に関する知見を利用して、ヘモグロビンタンパク質を高濃度で封入した脂質二分子膜小胞の膜揺らぎを測定する。そこから高濃度タンパク溶液を封入した系の特質を探っていく。イオン性界面活性剤の会合ゲルを利用した界面変形系にっいても、これまでの実験で得られている動きのメカニズムを解析し、細胞サイズの液滴が連続変形をする際に必要となる物理的因子を明らかにする。また、細胞の動態に直接寄与する生体高分子であるアクトミオシンを用いた実験系を構築し、実験、理論の両面から上記の系との比較を行っていく。
|