2014 Fiscal Year Annual Research Report
荷電不安定性が引き起こす非平衡膜界面の新奇構造・機能
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13J01297
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 弘明 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ソフトマター / 赤血球 / アクトミオシン / マイクロ流体デバイス / 界面 / 脂質膜 / 内毒素 |
Outline of Annual Research Achievements |
膜界面の非平衡挙動を対象として、1.アクトミオシン系を封入した細胞スケールの膜界面の構築、および、2.血液の病気に関する赤血球膜の形状ゆらぎの定量を行った。以下にその詳細を記す。 1. アクチンとミオシンと呼ばれるタンパク質をAmoeba proteusから精製し、その複合体(アクトミオシン)が発生させる収縮力を柔らかい脂質膜界面と結合させ界面変形を引き起こすことに成功した。界面変形時のアクチン分布を可視化することで、界面が二種の異なる変形モードを示すことが明らかになった。 2. flicker spectrocopyという溶液中における赤血球膜の形状ゆらぎのスペクトル解析を用いて、赤血球膜の力学的物性の定量化を試みた。特に、各種分子構造を持つ内毒素が赤血球の力学的物性に与える影響の定量化を行った。個々の赤血球で異なる物性値やその力学応答を定量化するために、単純な母集団の平均ではなく、マイクロ流体デバイスと光トラップを用いて、内毒素添加前後の赤血球を個々に経時観察した。前年度に試作していたdiffusion chamberと呼ばれるマイクロ流体デバイスを完成させ、成人赤血球、新生児赤血球の形状ゆらぎを測定した。そのゆらぎ解析から、内毒素の糖鎖が長いほど赤血球の曲げ弾性定数は減少しシア弾性定数は増加すること、新生児赤血球は成人赤血球に比べ弾性定数の変化が顕著であること、抗敗血症薬候補のペプチドが弾性定数の変化を抑える働きを持つこと、が明らかになった。本成果は成人・新生児赤血球における内毒素の影響を系統的に定量化する初めての試みであり、膜界面の物理学に留まらず物理学の視点から医学的にも重要な知見を与えるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、荷電を有する脂質膜界面が示す動的挙動について、その機構および機能を実験的に明らかにすることを目指している。特に生体膜の動的挙動の理解を目指すに当たり、当初は人工脂質膜小胞(リポソーム)を利用したボトムアップ的な手法のみを用いて実験系の構築を予定していた。しかし、現在までに、共同研究者の支えもあり生体高分子や生体膜を扱う実験技術が当初の予想以上に深まったことで、1.細胞の力生成に関わる生体高分子アクチン・ミオシンを利用したモデル脂質膜の界面変形や、2.生体膜として赤血球膜の形状ゆらぎの研究等に到達することができた。それらの系は当初の予定以上に生体膜に近いもの、または生体膜そのものであり、生体膜において荷電効果が現れる現象を実験的に理解する下地が整ったと言える。本年度の成果からは、アニオン性の内毒素分子が赤血球膜に挿入されることによる赤血球の形態変化・力学物性変化の定量や、静電相互作用を用いた界面とタンパク質の結合による界面変形など、荷電の役割と機能が着実に明らかになってきている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、今年度に行った1.アクトミオシンを封入した液滴系や、2.赤血球膜の力学物性に対する内毒素添加の定量評価の結果を論文誌・学会等で報告していく。以下にそれぞれの研究課題に関する今後の推進方策を示す。 1.アクトミオシンによる界面変形。前年度に実験・モデル化を行った界面透過法を用いて脂質二分子膜に転化させる。脂質二分子膜は脂質単分子膜に比べ表面張力が非常に低く変形能が高いため、より柔らかくダイナミックな動きの実現が期待できる。強い表面張力に形状を支配された液滴の場合とは異なり、脂質二分子膜系では突起の形成やトポロジーの変化を伴う大変形等が期待できる。また、アクチン結合タンパクを用いることで、アクトミオシンのダイナミクス自体をより生体に近い条件に置く。これにより、生体における非平衡膜界面が如何にしてその特徴的な「生きている」動きを実現しているのかをボトムアップ的手法の観点から議論する。液滴系から得られた力発生の数理的記述に、脂質二分子膜の弾性論を併合することで、そのダイナミクスの理論的な理解を試みる。 2.生体膜の形状ゆらぎ。本年度赤血球膜の形状ゆらぎの研究から得た知見を活かし、よりアクティブな生体界面の挙動として多細胞生物の動的界面ゆらぎにも着手し始めている。形状の波数モードの時間発展から、多細胞生物の体軸形成の時空間構造を定量的に見積もる。また、アクティブな形状変化に対する相補的な性質としてパッシブな粘弾性の測定も行うことで、多細胞生物の変形に対するアクティブな寄与とパッシブな寄与の切り分けを目指す。
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