2014 Fiscal Year Annual Research Report
「産み」の哲学的・倫理学的研究-生命論、他者論、フェミニズムを参照軸として
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13J01743
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
居永 正宏 関西大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 産み / 出生 / 誕生 / 死 / 弔い / フェミニズム / 男性学 / フェミニスト現象学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年度に引き続き「産み」についての哲学的考察を進め、論文3本を発表した。 1つめの論文「「産み」を哲学するとはどういうことか」は、昨年7月に開催された関西大学倫理学研究会で発表した内容を論文にまとめ、同研究会発行の『倫理学論究』に掲載された。本論文では、これまで問うてきた「産みとはなにか」という主題をメタ的に捉え返し、そもそも「産みを哲学するとはどういうことか」という視点から「産み」を考察した。この考察から、女性的主体としての経験を現象学的に捉えるという「フェミニスト現象学」という分野が産みの哲学の先行研究として浮かび上がり、そこで「産み」がどう論じられているのかをレビューするという課題が明らかになった。 2つめの論文「フェミニスト現象学における「産み」をめぐって」は、大阪府立大学女性学研究センター発行の『女性学研究』に投稿、査読を経て掲載決定済みである(発行日付は2015年3月で現在印刷中)。本論文では、まずフェミニスト現象学一般のレビューを行った上で、フェミニスト現象学における「産み」の理解を跡付けた。そこから、フェミニスト現象学は「産み」を女性身体による妊娠と出産に限って論じていることが明らかになった。それに対して筆者は、「産み」の現象学的探求は、妊娠に先立つ性交渉、性関係、また出産の後に続く子育て、親子関係にまで広げていくことが必要ではないか、それは同時に「産み」の営みおよび「産み」の哲学に男性を巻き込むことではないか、と主張した。 3つめの論文「「産み」と「死」についての覚え書き:「弔い」を手掛かりに」は、大阪府立大学21世紀科学研究機構「環境哲学・人間学研究所」発行の『現代生命哲学研究』に掲載された。本論文では、これまでの「産み」の考察からは視点を変え、「産み」と生の両極を成す「死」について、それを「産み」と内在的に関連させて把握するという試みを行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題では、「産み」の哲学を構築するべく、ベルクソンの生命論、レヴィナスの他者論、フェミニズムの母‐子論という三つの軸を立てて考察を進める計画であった。しかし現在のところ、フェミニズム関連の資料調査や先行研究のまとめ、また男性学への接続についての考察などが特に進んでいる一方で、前2者のベルクソンの生命論とレヴィナスの他者論を軸にした産みの考察については、昨年度の論文でレヴィナスについて多少論じたに留まっている。また在外研究については、今年度は主にフェミニズム関連の資料収集と論文執筆に研究を集中したため、現時点では具体的な日程が定まっておらず、最終年度に実施できない可能性もある。 一方で、特に進んでいるフェミニズムを軸とした考察については、予定通り進んでおり、最終年度にはそこから発展する男性学的「産みの哲学」を提示できる見込みである。また論文の発表数という点では、博士論文執筆のために投稿論文1本に留まった初年度に対し、今年度は3本掲載されており、「産み」の哲学という構想自体は着実に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、これまでは三つの軸の中でフェミニズムの軸が最も研究が進展しているので、最終年度にはそれを発展させるための作業を主に行いたい。具体的には、男性にとっての産みという視点から男性学の先行研究をレビューし、現象学的身体論、ジェンダー論、人類学的な知見などを踏まえた男性学的産み論を提示する。 ベルクソンの生命論とレヴィナスの他者論という二つの軸に関しては、継続的に資料収集は進めるが、まとまった考察を発表するかは上記の男性学的産み論の作業量や進行度合いとの兼ね合いを見て判断する。 在外研究の実施も念頭にはおいているが、その代替案として、国際学会での発表や海外誌への論文投稿を含めて、国際的な場での「産みの哲学」の発信を行う。
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Remarks |
雑誌論文「「産み」を哲学するとはどういうことか―哲学と経験」に対する山下文人氏と品川哲彦氏からのコメントに対する応答。
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Research Products
(5 results)