2014 Fiscal Year Annual Research Report
食からのエスニシティ・階層の生成・変動に関する研究-横浜鶴見の多文化接触領域より
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13J02182
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安井 大輔 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 多文化 / 食 / エスニシティ / 沖縄 / ラテンアメリカ / 移民 / 文化実践 / コンタクト・ゾーン |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度の前期は主として博士論文の執筆を行ない、京都大学大学院文学研究科に提出し2014年11月に学位を得ることができた。学位論文は、横浜市鶴見区にある、沖縄から日本に移住した人びと(本土沖縄移民)と、沖縄から南米諸国の移住を経て横浜に再移住した人びと(南米帰還移民)の集住地での調査をもとにしたものである。マルチ・カルチュラリズム(多文化主義)をめぐる政治哲学的な議論を踏まえて、異なるエスニシティ・文化を持つ人びとが共存し、文化接触が生じるなかで、どのような沖縄らしさ(オキナワネス)が生成されるのかという問題を検証した。対象地域におけるエスニックイベントやエスニック組織とならび、移民の経験が反映されたローカル・エスニックフードを取り上げ、文化の恒常性と混淆性を軸に議論を展開している。 後期には、共同研究としておこなっている社会階層論の研究論文を英語で執筆し発表した。これは個人や世帯の階層を示す代表的な指標である所得をめぐって2013年度に発表した「グローバル・シティと賃金の不平等―産業・職業・地域」(『社会学評論』64巻2号)の続編であり、前回が2005年度の賃金センサスをもとにしたクロスセクショナルな単年度データの分析であったのに対し、今回は1985年、1995年、2005年の賃金センサスの結果をパネルデータにし、時系列的変化を分析したものである。 学会発表では、7月に横浜で開かれた世界社会学会議(International Sociological Association)で、これまで調査してきたフィールドにおけるフードビジネスや観光地化について報告した。 また、日本の文化人類学者を中心に構成されたフィールドワーカーズネット(東京外国語大学)による、食餌行為(Feed)をテーマとしたワークショップに招かれ、受け入れ研究者である秋津元輝氏とともにコメンテータを務めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究課題に沿った博士論文を京都大学大学院文学研究科に提出して博士学位を取得することができた。そこでは従来のエスニシティ研究で指摘されていた共同性・連帯を保障する「真正性」の次元と、構築的で状況に応じて自在に変容する「可塑性」の次元を接合させる新しい枠組みを提示した。筆者は前者を《恒常性》、後者を《開放性》と定式化し、横浜市鶴見区に居住する沖縄移民の生活史と彼らの作るエスニックフードに密着することで得たデータから、両者の絡み合いを分析しこの枠組みの有効性を検証した。対象地域でオキナワ料理を提供するレストランでは、コミュニティ外部の客の嗜好に合わせて味付けを変え、メニューが多言語化し、従業員の国籍も多国籍化している。沖縄料理はエスニシティの開放性を象徴する一方で、そうした変容が打ち出された料理は人気がなく、実体としての変容にもかかわらず普遍的な「本場の味」を謳う料理が受け入れられている。つまり、エスニックフードは実体としての変化とイメージとしての「伝統」を自己言及的に作り出し、開放性の高まりにおいて恒常性が再帰的に構成されている。このように、文化の多元性・多様性が保障され、文化の開放性が促進されるためには、開放の核として恒常性が求められる。同時に、安定した集団アイデンティティが保証され、恒常性がより促進されるための装置として開放性が求められる。申請者は、実証データに依拠して、このようにエスニシティをいっけん相反的な性質でありながらも相乗的にお互いを高め合う、再帰的構造としてモデル化し、エスニシティの二分法を止揚する一つの方法を提示することができた。 また世界社会学会議(International Sociological Association)など国際学会での研究報告やワークショップでの招待コメントなどを通じて、積極的に成果を公表し、研究ネットワークを広げつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
筆者は、エスニシティを食の観点を通して分析するために、毎年横浜市鶴見区に長期間滞在し、沖縄移民の生活世界のデータ収集を続けてきた。この調査研究で得られた結果を、今年度は、博士論文として結実させることができた。今後は、広く世に公開していくために、博論の内容を学術書として出版する予定である。 これまで申請者の取り組んできた研究は、日本で周縁化されたエスニック集団の相互行為を分析するものであったが、沖縄移民のエスニシティは日本というナショナル・マジョリティのなかにあって、それに対する反応(適応や対抗)として表出される。周縁化されるマイノリティの文化の問題をより構造的に理解するためには、周縁化する力、すなわち食とナショナリズムの問題を明らかにしなければならない。このような問題意識に導かれて、筆者は、沖縄料理というエスニックフード研究の次なる展開として、ナショナルフードとしての日本料理、すなわち「和食」をめぐる研究に取り組むことを計画している。 なお筆者は、自身の研究を食の比較社会学的研究として進めてきたが、食をめぐる問題は、栄養学などもっぱら一部理系分野に限定され人文社会科学ではほとんど関心を払われてこなかった。が、欧米では人類学・歴史学・社会学・文学・哲学の方法で食の問題を扱う人文社会科学的なFood Studiesが分野として確立されている。日本でも同種の食研究の展開をはかって、2011年から思想史・歴史学・社会学などこれまであまり食に焦点化してこなかった分野における若手の食研究者と「食の研究会」を主催し、領域的・人脈的な研究者ネットワークを拡大するとともに、一般向けにも食研究の紹介に努めてきた。この研究会の成果として、様々なジャンルに広がる優れた食研究の文献の書評集『フードスタディーズ・ブックガイド』の執筆と編集を現在進めており、2016年にナカニシヤ出版より出版予定である。
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Research Products
(7 results)