2014 Fiscal Year Annual Research Report
全ゲノム比較を用いたグリーンアノールの適応進化機構の解明
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13J02632
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
玉手 智史 東北大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 急速な進化 / 外来種の適応 / 自然選択 / 選択的一掃 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に行った全ゲノム配列解析により得られたSNPsの情報を用いて、遺伝的集団構造の推定を行った。その結果、最適な遺伝的集団数は3と推定され、北米、沖縄、小笠原諸島(父島・母島)の3地点で明確に遺伝構造が分かれることが明らかになった。これは、侵入から最長の地点でも60年という短期間にもかかわらず被侵入地域ではゲノムレベルで遺伝的分化が進んだことを示す。 次に、新規環境に進出後に選択を受け急速に進化した遺伝子を検出するため、複数の手法を用いて選択的一層(selective sweep)を受けた領域(遺伝子)の検出を行った。その結果、各地点で1,000近くの候補遺伝子が検出された。現在それらについてGene ontology 解析やKEG pathway解析を進めている最中である。また、2解析以上で選択が支持された遺伝子の機能に着目した結果、表現型と関連のある複数の遺伝子が検出された。 侵入定着を可能にする要因の一つとして侵入環境における捕食者の有無が重要である。しかし、小笠原諸島におけるグリーンアノールをとりまく生物間相互作用については明らかになっていない。近年、小笠原諸島に生息するクマネズミがトラップにかかったグリーンアノールを捕食している様が確認された。これはクマネズミがグリーンアノールの捕食者になり得ることを示すだけでなく、安易なクマネズミの駆除がグリーンアノールの拡大を助長する可能性を持つことを示唆している。野外環境においてもグリーンアノールの捕食が起きているのかを明らかにするため、小笠原父島、母島、兄島のクマネズミの胃内容物を解析し、グリーンアノールのゲノム情報が検出されるかを調査した。その結果、いずれの地域においてもグリーンアノールのゲノムは検出されなかった。したがって、クマネズミはグリーンアノールを主食としておらず、捕食者として機能するほどの影響はないと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年次計画通りに進んでいる。また、新たな試みとしてグリーンアノールの捕食者候補であるクマネズミの胃内容物解析を加えた。計画当初は侵入定着に関する遺伝的側面についてのみ明らかにする予定だったが、これによって生態学的側面についても知見が得られると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究により、侵入後に選択を受けた遺伝子が複数検出された。次年度はそれらの中から特に環境との関係性が考えられるものについて、現地調査を交えて調査を行う予定である。また、グリーンアノールが小笠原諸島生態系にどのような影響を与えているのかを明らかにするために、グリーンアノール胃内容物のメタゲノム解析により餌資源の網羅的解析を行う予定である。これらによって、侵入成功に寄与した遺伝的背景だけでなく、生態学的な背景についても重要な知見が得られると考えている。
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