2014 Fiscal Year Annual Research Report
狩猟採集民の学習における「教示の不在」―積極的関与はなぜ隠されるのか―
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13J02838
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
園田 浩司 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 狩猟採集 / バカ・ピグミー / 子ども / 参加 / 相互行為上の調整 / 学習 / 作業配分 / 環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では, 狩猟採集民の学習実態の解明を見据え, 狩猟採集生活を取り巻く環境と学習との関わりを視野に入れてきた。狩猟採集民にいまなお欠かせない狩猟採集の知識・技術を, 子どもは狩猟採集実践に参与する中で獲得するとされる。狩猟採集社会における子どもの学習に関しては, 生業活動への参与や, 周囲との長時間の関わりなど, 社会の柔軟性が強調されるが, では具体的にどのように達成されているのか, このような柔軟性と狩猟採集という生活様式がどう結びつくのか, いまだ実証的に示した研究はなかった。そこで報告者は, 実際の狩猟採集活動で生起する微細な相互行為を検証する必要があると考えた。 狩猟採集で代表的な活動である集団オニネズミ猟に注目したところ, 子どもの参加を可能にする周囲の協力の3つの特徴を抽出した。[1]子どもの参入は, 狩猟作業の妨げにならない機会が利用される。猟の進行中, 偶然できた作業場のスペースに, 子どもを配置させていた。しかしそこは, 作業場のひとつとして重要な場所にちがいはなかった。[2]自発的に参入しようとする子どもの行為を承認する, また意味を与える。青年たちとの社会的状況へ自発的に参入しようとする子どもの行為に応答し, 子どもの行為を共に解釈しなおしてやったり, 質問に答えてやったりしていた。[3]資源へのアクセスを支える。作業に必要な道具, 作業工程のなかで注目される環境の対象物, また経験者たちが狩猟中に用いることばといった異質で多様な資源に対して, 大人や青年は子どもの接近を後押ししていた。 変化し続ける狩猟の状況に応じて, 実践へと学習過程を埋め込むその巧みさが明らかにされが, こうした彼らの行為の調整が, 森の環境や活動の性質にうまく組み合わされることで達成されていることを示している。これは平等主義という社会規範に回収されがちな狩猟採集社会の子どもの学習研究に, 新たな視座を提示したといってよい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
フィールド調査とデータの確保により, 研究課題で掲げた問題について, 成果が上がっている。報告者は, 国内外で情報発信を積極的に行い, 国内学会とシンポジウムにて3件の発表を行った。また研究協力者として参加した「文部科学省科学研究費補助金(新学術領域研究)『交替劇』(ネアンデルタールとサピエンス交替劇の真相 : 学習能力の進化に基づく実証的研究)研究項目A-02『狩猟採集民の調査に基づくヒトの学習行動の実証的研究』」の報告書や図書を出版し, その成果の一部を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
カメルーン東部州に暮らす狩猟採集民バカ・ピグミーの大人一子ども間相互行為についての動画資料, および比較のための近隣農耕民ジメの大人一子ども間の相互行為についての動画資料を, 引き続き収集・分析・分類する。以下の研究項目について今後の研究計画の基本方針を記す。「大人の行為調整における行為の分類」 : 大人が子どもに接する際に表出する関与の仕方は様々である。その行為がその場に応じてどのように生起するのかを点検し整理することで, 狩猟採集という生業様式と大人の行為調整の関係を明らかにする。また, 本研究では集団猟実践として, 現在で唯一観察可能なオニネズミ猟に着目したが, 民族誌資料などのさらなる検討, 聞き取り調査により, オニネズミ猟とその他の集団猟に関する活動上の差異を明らかにし, 諸活動と行為調整の関わりを体系的に整理する。
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[Book] 動物と出会うⅠ : 出会いの相互行為2015
Author(s)
木村大治, 菅原和孝, 園田浩司, 内藤直樹, 島田将喜, 花村俊吉, 稲角暢, 松嶋健, 藪田慎司, 中村美知夫, 伊藤詞子, 鈴木真理子, 高田明
Total Pages
xviii+197(23-35)
Publisher
ナカニシヤ出版