2013 Fiscal Year Annual Research Report
銅酸化物超伝導体の擬ギャップ状態のバックフロー効果によるモンテカルロ法での研究
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13J03134
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
田村 駿 東北大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 超伝導 / 変分モンテカルロ法 / 銅酸化物 / 擬ギャップ / スピンカレント状態 / 金属-絶縁体転移 / 局在長 / 異方的三角格子ハイゼンベルグ模型 |
Research Abstract |
1. 銅酸化物超伝導体は母物質がモット絶縁体であり、2次元ハバード模型が、そのモデルとして長く研究されてきた。この模型は電子密度が1のときで磁性を仮定しないと、相互作用の増大に伴い金属絶縁体転移を起こす。系が金属なのか絶縁体なのかは状態密度が求まっていれば、そのギャップの有無で判定が可能であるが、変分モンテカルロ法のように基底状態のみしか求まらない手法では適用できない。そこで、我々は波動関数の局在長による判定方法を格子模型に対して変分モンテカルロ法により初めて適用した。 2. 銅酸化物超伝導体は超伝導転移温度よりも高い温度において時間反転対称性などが破れることに伴う擬ギャップが観測されている。擬ギャップの原因としては交替フラックス状態などの候補はあるものの、解明はされていない。銅酸化物超伝導体と同様に、強相関が本質的に超伝導の原因になっていると考えられているκ-ET塩などの有機物超伝導体は三角格子ハバード模型がよいモデルになると考えらている。ChubukovとStarykhが磁場を印加した異方的ハイゼンベルグ模型において交替フラックス状態のスピン版とでもいうべきスピンカレント(SC)状態が発現するという論文を提出した。κ-ET塩においても擬ギャップが現れるが、三角格子であるため銅酸化物超伝導体と同様の交替フラックス状態の実現は難しいと考えられ、SC状態はその候補になりうる。そこで我々は変分モンテカルロ法を用いて、まずは非磁性状態とSC状態のエネルギーを三角格子ハイゼンベルグ模型に対して異方性と磁場の大きさを変化させながら比較した。この結果、ほぼ等方的でかつ磁化m>0.5の領域においてSC状態のほうがエネルギーが低くなった。更に以前よりこの領域で基底状態になると考えられていたV字型のスピン秩序状態とSC状態のエネルギーを比較しV字型スピン秩序状態がこのパラメータ領域においては最安定であるという結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
波動関数が金属なのか絶縁体なのかを判定するための方法として局在長による方法の有用性を確認できた。また、本研究の最終目的である銅酸化物超伝導体の擬ギャップ状態の解明に向けて、まず同様に擬ギャップを示す有機物超伝導体において、擬ギャップ状態がスピンカレント状態に起因しないということを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップ状態の有力候補と考えられている交替フラックス状態にはいくつかの種類がある。Varmaの提案している銅サイトと同一平面上にある最近接の酸素サイト2個で構成される3角形で電流の流れている状態は実験で得られている擬ギャップ状態での並進対称性を破らないという点で一致している。しかし、この状態は、強相関で信頼のおける方法によりエネルギーが安定化するかどうかということについては、議論されていない。本年度より、変分モンテカルロ法によりこの状態が安定か否かを確認する。実際の計算では銅と酸素を考慮したd-p模型について計算する必要があるが、単位格子あたりの格子点の数が正方格子ハバード模型の3倍になるため、計算時間がかかることが考えられる。よってプログラムの効率化と計算機の並列化を行いながら、d-p模型での超伝導状態、反強磁性状態、Varmaのフラックス状態についてエネルギー及び種種の物理量を計算し、その性質を論じる。
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Research Products
(10 results)