2013 Fiscal Year Annual Research Report
最初期の宇宙の熱史と暗黒物質の生成および発展についての研究
Project/Area Number |
13J03160
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
齋川 賢一 東京工業大学, 大学院理工学研究科(理学系), 特別研究員(PD)
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Keywords | 宇宙論 / 暗黒物質 / アクシオン / 一般相対論 / 素粒子論 / スカラー場 |
Research Abstract |
本年度はアクシオン暗黒物質の宇宙論的発展に注目した研究を行った。アクシオンは非常に軽い質量を持つが、初期宇宙において非熱的に生成されるため速度分散が極めて小さく、「冷たい」暗黒物質の候補と見なされている。近年、このように非熱的に生成されたアクシオンが重力相互作用によって熱化して現在の宇宙でボース=アインシュタイン凝縮を起こしており、銀河ハローの構造や宇宙論的観測量に影響を及ぼす可能性が指摘されている。これを受けて、非熱的に生成されたアクシオン場の発展を解析し、相互作用によって状態占有数の変化が起こるタイムスケールの見積もりを行った。 特に本年度の研究によって、先行研究における解析内容を一般相対論的補正を取り入れた枠組みに拡張することが可能となった。一般相対論的枠組みでは、重力相互作用はアクシオン場と計量の揺らぎとの相互作用の組み合わせとして理解される。ここでは、宇宙論的摂動論の研究分野で近年よく用いられている有効場理論の考え方を応用することにより、アクシオンの系における重力相互作用項を全て書き下し、膨張宇宙において系の発展を記述する有効ハミルトニアンを導出した。これを用いて輻射優勢時期におけるアクシオンの状態占有数の時間発展を解析したところ、地平線半径よりも十分小さな波長のモードに対しては先行研究の結果を再現すること、およびそのような短波長モードと地平線外の長波長モード(すなわちボース=アインシュタイン凝縮)との遷移が頻繁に起こり得ることが示された。この研究成果はアクシオンがボース=アインシュタイン凝縮を形成するか否かという問題に対する定量的アプローチを行うという意味で重要であるが、アクシオンだけでなく宇宙における他のスカラー場に対しても当てはまる理論形式を与えており、様々な応用が期待できるという意味で極めて意義深い成果であると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アクシオンの膨張宇宙のもとでの重力自己相互作用を取り扱う一般的な解析手法を、一般相対論的補正を考慮しながら構築することを研究計画で挙げていたが、本年度の研究では当初の計画通りアクシオンの重力相互作用を一般相対論的枠組みで定式化することに成功し、系が重力相互作用によってボース=アインシュタイン凝縮を形成し得るという先行研究での議論を支持する成果があげられたため。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、膨張宇宙におけるアクシオンの重力相互作用を考慮した上での系の発展について定量的な解析を行うことが可能となったが、現段階では系の分布関数が変化する典型的なタイムスケールの見積もりを行っただけであり、実際にボース=アインシュタイン凝縮が形成されるか、形成される場合銀河等の宇宙の構造の形成に対してどのような影響を及ぼすのかという点について十分な理解が得られたとは言い難い状況である・したがって・今後は本年度の研究で得られた理論形式を応用することにより、アクシオン場の実空間での発展の様子や観測量に対する影響等について詳しく調べていく予定である。また、アクシオンの他に計画に掲げた超対称性理論における暗黒物質候補の制限に関連する研究についても取り組んでいく予定である。
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Research Products
(9 results)