2013 Fiscal Year Annual Research Report
新奇なスピン-軌道配置のバルク及び表面状態へのスピン流注入と応答現象
Project/Area Number |
13J03230
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
江口 学 京都大学, 大学院 工学研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | バルク・ラシュバ型結晶 / スピン軌道相互作用 / 動的スピン流注入法 / トポロジカル絶縁体 / 表面ディラック錐 / 電子輸送特性 / 2次元量子振動 / 幾何学位相 |
Research Abstract |
【1】バルク・ラシュバ型結晶へのスピン注入とその応答現象 報告者が単結晶育成技術を確立したバルク・ラシュバ型結晶へのスピン注入を、動的スピン注入法であるスピンポンピングを用いて試みた。本物質はバルク全体で巨大なラシュバ型スピン軌道相互作用を持ち、これに起因する巨大なスピンホール効果が期待される一方で現時点でまだ信号の検出には至っていない。原因は現在調査中で、スピン源と物質の接合界面の乱れの影響がその有力な候補である。今後も検証を重ねて信号の検出を目指すとともに、バルク物質を扱うための基礎技術の確立とノウハウの蓄積を図る。 【2】トポロジカル絶縁体表面デラック錐へのスピン注入とその応答現象 現在までに報告されているトポロジカル絶縁体はバルク金属であるため、その表面金属状態に起因する新奇輸送現象の検証が困難であった。本研究では2013年に新たにフェルミ準位の制御が実現された、大きなバルク・バンドギャップを持ち理論との比較に最適と目されるタリウム系トポロジカル絶縁体に着目した。初年度である本年度は、申請書に記した試料取扱いの基礎技術の確立を目指し、本物質の大気暴露に対する安定性および幾つかの有機溶剤に対する試料の反応性を調べた。また表面金属状態を介したスピン輸送の実現に向け、まず基本的な電子輸送特性の解明を目指した。その結果、フェルミ準位制御された試料では実際にバルクが絶縁的であり、降温に伴って金属伝導性が顕著になることが分かった。さらに表面ディラック錐に特徴的な2次元量子振動および有限の幾何学位相の観測に成功した。本結果により、タリウム系トポロジカル絶縁体が表面スピン輸送の好適な舞台であることを実験で明らかにすることに成功した。現在までにバルク絶縁性が達成された物質がBiTeSe系のみであったことを考えると、本成果のインパクトは大きいと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
【1】【2】のいずれも、基礎学理の観点からは示唆に富む魅力的な舞台である一方で、その実験実証が容易ではないと考えられていた側面がある。本年度の研究により特に【2】について、一般に広く用いられる装置と平易な技術のみで表面ディラック錐を介した電子輸送を実現できたことは大きな意味を持ち、本物質を舞台とした電子・スピン輸送特性の研究と応用展開が広く期待される。以上の理由を踏まえ、①とする。
|
Strategy for Future Research Activity |
【1】については、引き続きスピン輸送と信号検出のための基礎技術の確立を目指す。また長距離スピン輸送を想定した、他の物質を用いた技術確立も同時並行で進める。異なる物質と比較検証することで基礎学理の発展だけでなく制御、応用のために必要な課題を明確にする。【2】では本年度の電子輸送技術の確立に続き、スピン輸送技術の確立を目指す。具体的には微小結晶及び微細加工技術を用いた実験・研究を行う。また電子輸送特性についても測定技術の深化、精密化を図る。得られた結果をグラフェンにみられるディラック錐の性質と比較検証することで、ディラック錐を介した電子・スピン輸送に関し普遍的な知見が得られると考えている。
|