2013 Fiscal Year Annual Research Report
近代フランス・ピアノ音楽と演奏「伝統」の創造-そのナラティヴ形成の検証を通じて
Project/Area Number |
13J03231
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Research Institution | 東京藝術大学 |
Principal Investigator |
神保 夏子 東京藝術大学, 大学院音楽研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 近代フランス音楽 / 演奏家 / 音楽教育 / 伝承 / ピアノ / ナショナリズム / ナラティヴ / カノン |
Research Abstract |
本研究の目的は、ガブリエル・フォーレ(1845-1924)、クロード・ドビュッシー(1862-1918)、モーリス・ラヴェル(1875-1937)らのピアノ作品が、いわゆる「近代フランス音楽」の代表的レパートリーとして浸透していく初期段階を、同時代の演奏家による「伝統の創造」という観点から批判的に検証することである。具体的には、3人の作曲家のそれぞれと交流を持ち、後に彼らの音楽の「伝統」の継承者を名乗ったフランスのピアニスト・ピアノ教育者のマルグリット・ロン(1874-1966)の事例を中心に、彼らの作品の伝承を支えるナラティヴの変遷や流布のプロセスを、フランスにおける作曲・演奏両面でのナショナル・アイデンティティの構築や強化との関わりから探ることを試みる。 本年度は6月17日~7月26日に行ったフランスでの資料収集・調査(マーラー音楽資料館、国立文書館、国立図書館)をもとに、以下の2点を中心に研究を進めた。 ①大作曲家についての「回想録」として知られるロンの晩年の諸著作、特にAu piano avec Claudc Debussy (Paris, 1960)の成立背景を、彼女が残した公開演奏講座の草稿、雑誌論文、ラジオ・テレビ番組の記録等との関連を通じて詳細に検証し、その音楽史的資料としての評価の再考を行った。 ②ロンが長年教鞭をとったパリ音楽院ピアノ科における20世紀前半の学内試験の全演奏曲目を調査し、その全般的な選曲傾向の変遷を演奏回数の統計を通じて概観するとともに、フォーレ、ドビュッシー、ラヴェルの作品が「近代フランス音楽」としてピアノ教育上の標準的なレパートリーに浸透していくまでの諸段階を実証的に明らかにした。 以上を通じて、ドビュッシーらの作品が「現代音楽」から一種の国民的文化遺産へと変化していく過程の一端を、演奏教育者の語り(質的)、生徒による作品演奏数の変遷(量的)という2側面から検証し、その成果を雑誌論文(査読有)2件、口頭発表2件としてまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
後述する通り、研究遂行の過程で研究計画の部分的な変更の必要性が生じたが、フランスでの調査が順調に進んだため、資料収集やデータの解析は研究目的の本質に照らしてほぼ計画通りに進めることが出来た。また、定期的な成果発表を通じて今後の課題をさらに明確にすることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
先に整理を終えた「ドビュッシーの伝統」関連の言説研究に引き続き、次年度は①フォーレ、ラヴェルに関する同様の研究の継続を予定している。また、②演奏家の使用楽譜や作品解釈論(言説)と演奏録音(音響)との比較分析による、演奏実践上の「伝統」(演奏習慣)の実態や演奏家間の影響関係の解明③第二次大戦期から戦後にかけての音楽教育・出版・放送における「近代フランス音楽」をめぐる諸言説の分析およびそのコンテクストの調査に取り組み、「伝統」形成にかかわる演奏教育や作品受容のプロセスのより多元的な理解を目指す。 なお、当初の計画では、ロンと同時代のピアニスト・教育者アルフレッド・コルトー(1877-1962)の活動の比較を中心に研究を進める予定であったが、三作曲家の「伝統」をめぐるナラティヴ形成の問題により密接にかかわるロンの事例に調査の焦点を絞ることにした。
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Research Products
(4 results)