2013 Fiscal Year Annual Research Report
米国スモールスクール運動にみる地域コミュニティ再生と学校制度空間設計の連関
Project/Area Number |
13J03586
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
榎 景子 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | スモールスクール運動 / 学校再編配置 / 地域コミュニティ再生 / 米国教育改革 / ボートフォリオマネジメント / 首長主導改革 / 教育行政 |
Research Abstract |
本年度は、米国学区教育委員会の学校再編配置施策に焦点を当て、地域再生との連動について検討した。近年の米国では、新段階を予期させる動向が出現し理論的にも注目を集めつつあるため、それらを個別に考察し論考としてまとめた。 第一に、スモールスクール改革を進めた多くの米国都市学区で「ポートフォリオマネジメント」という新たな学区運営手法が開発・導入されていることに着目し、オークランド統合学区の事例からその特質を解明した。これは、学区全体の教育ニーズの変動や資源の有限性を鑑みて、全所管学校の改善支援と配置の両方を戦略的・調整的に計画・実施するものである。さらに、その過程に住民一教育専門家間や学校間での対話・相互学習が組み込まれ、学校改善や再編配置を通じて地域内での新たな教育関係の形成・組織化が目指される点も重要である。これらには学校支援・再編配置施策において従来は的確に位置づけられていなかった、資源・ニーズの"地域総合調整"的な視点の貫徹を読み取ることができた。 第二に、同取り組みの意義を一層明瞭にする対比事例として、ワシントンD.C.で強権的に進められた学校再編・統廃合施策に着目し、これを可能にした制度的基盤と政治過程について検討した。D.C.では2007年に、首長の影響力強化の下で権力発現を容易にする教育行政体制が構築された。その背景には、公立学校に対する市民の不信・不満や成果達成への期待があり、これが後押しとなって関係者の反発・意向が十分な影響力を持たないまま改革が推進される様相を見て取れた。近年では、子どもの包括的ケアや地域再生の観点から、首長関与による領域横断的・地域総合的な政策形成・実施への期待もあるが、第一の事例とは異なりD.C.の事例からは、それが具体的な学校の諸活動・人間関係の吟味や市民の学習を伴わなければ、むしろ民意の名を借りた形式的な学校再編・地域再生を拙速に生み出しかねないことを指摘しえた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず資料収集面では、国内外での資料収集と米国研究者等への聞き取り調査を通じて、本研究の理論枠組形成と実践分析を進める上で有益な、期待を上回る知見を得ることができた。また、成果取りまとめの面では、学術論文2編を執筆し, 学会発表も2回行うことができた。調査事例追加や訪問先の都合等により一部計画変更もあったが、研究深化と成果達成ともに初期の計画を上回る進捗状況であったため、自己評価は上記の通りとした。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず本年度に入手した本研究の理論的フレームの形成に示唆的な諸論考を解析し、米国における「教育改革を通じた地域コミュニティ再生」に関する方法論的考察をまとめる。第二に、オークランド統合学区のスモールスクール改革にみる住民組織化過程・政治過程について、資料解析を継続しつつ不足資料を追加収集し、論考にまとめる。第三に、具体的素材として米国都市学区における学校再構築とジェントリフィケーションとの連関を取り上げ、事例研究を行う。同素材は初期計画に組み入れていなかったものの、研究を進めるうちに本テーマを深化する上で必要と考えられたため追加することにした。すでにシカゴ在住の研究者を訪問して予備調査を行っているため引き続き連絡を取り、具体的な検討対象校・対象地域を選定して現地調査し、事例分析を進める予定である。
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Research Products
(4 results)