2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J03593
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
北梶 陽子 北海道大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 社会的ジレンマ / 情報公開 / 監視 / サンクション / ゲーミング / 共通目標 |
Research Abstract |
本研究は、社会的ジレンマ状況における共通目標の共有過程を明らかにすることを目的としている。社会的ジレンマ状況では、一般にサンクション(監視、罰則や報酬)を導入できれば協力すると言われているが、本研究ではサンクションがあっても情報共有や共通目標の共有が阻害されると協力行動をもたらすどころか非協力行動を引き起こす場合があることを例証した。つまり相互協力を達成するためのサンクションが機能するには、共通目標が共有され、相互協力の期待が醸成されていなければならない。そこで、この次のステップとして、共通目標の共有のために重要とされる情報共有が行われる過程を明らかにする。そのために、当該年度は情報公開が監視以外の機能を持っかということを検討した。具体的には、監視としての実効性が低い情報公開条件を設定し、情報公開が監視と同一の機能しか持たず、それゆえ監視として機能しないのであれば社会的ジレンマ状況において協力行動をもたらさないのか、それとも情報公開が監視とは異なる機能をもち、それゆえ協力行動をもたらすことが可能となるのかという二つの可能性について検討した。この研究では「産業廃棄物不法投棄ゲーム」という社会的ジレンマ構造をしたゲーミングを用い、公開する情報はそれだけでは協力したかどうかはわからないものとし、さらに情報を公開する際に虚偽の情報を公開することも可能とした。結果、監視としての実効性が低い情報公開条件で情報公開のない条件よりも協力行動が多く、公開されていない情報までもがより共有されていた。これは現実における情報公開の制度設計において追跡可能性が要件であると考えられている一方で、それとは異なる情報公開の機能に着目した制度設計の可能性を言及するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
心理学における通常の実験とはそもそもの発想が異なるゲーミング技法を用いた研究が認められることには時間を要するが、査読者の理解を得られ『心理学研究』に本研究の最初の成果を刊行できた。さらに、研究計画時点では、情報公開の監視機能については曖昧な理解しかしていなかったが、ゲーミングのルールを工夫することで情報公開が監視として機能しにくい状況を作ることに成功し、監視として機能しづらい、かつ、虚偽の情報公開が可能な状況でも協力行動をもたらすという知見が得られた。また、10th International Su㎜er School in Gaming Simulationでのゲーミング実演、社会の数理セミナーでの研究発表といった機会をいただいた際のコメントから次年度に結びつくアイディアを多く得ることができ、十分な進展が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
交付甲請書においては、研究IIとして情報公開に相互強制させるような設計が与える影響について検討する計画であり、この点を深く掘り下げる。情報公開を相互強制することによってそこには罰が発生することが考えられるため、罰の提供が集団内の情報共有を妨げるという可能性について検討する。まずはこの現象の例証に重点を置くが、今後、その理論的側面についてさらに議論を重ねていく。それに伴い、これまでは「産業廃棄物不法投棄ゲーム」という産業廃棄物の不法投棄問題を例に社会的ジレンマ構造をしたゲーミングによって、サンクションの負の効果を検討してきたが、今後は情報共有の促進要因や阻害要因をより反映しやすいゲーミングを開発し、それを用いて研究を進める予定である。新規ゲーミングに関してはルール等の設計はほぼできており、試用版の実施に向けて準備を進めている。
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