2014 Fiscal Year Annual Research Report
過飽和の視点から見たアミロイド線維分子機構とそれに関わる脂質膜の役割の解明
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13J03790
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
寺川(鈴木) まゆ 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アミロイド線維 / アミロイドβ / 脂質膜 / 曲率 / アモルファス凝集 |
Outline of Annual Research Achievements |
アミロイドβはアルツハイマー病に関与しているペプチドとして知られている。アミロイドβが凝集することによりできたアミロイド線維が組織に蓄積することが、アルツハイマー病の原因の1つであると考えられている。アミロイドβは、脂質膜と相互作用することが知られており、これまであまり注目されてこなかった脂質膜の曲率に着目することにした。 脂質膜の曲率がどのようにアミロイドβのアミロイド線維形成に影響するのかを調べた。小さなサイズのリポソーム(30nm)がアミロイドβの核形成を促進するということ、そして大きなリポソーム(100nm)は不定形凝集であるアモルファス凝集を形成する傾向にあるということが分かってきた。これは、それぞれのサイズの脂質膜とアミロイドβの相互作用の違いにより生じるのではないかと考え、等温滴定熱量計を用いて、脂質膜にアミロイドβが相互作用する際の熱をそれぞれのサイズのリポソームを用いて測定することとした。その結果、30nmのリポソームとアミロイドβとの相互作用は発熱反応であり、100nmのリポソームとの相互作用は吸熱反応であることが分かった。さらに、解離定数を調べたところ、100nmのリポソームへの相互作用の方が30nmのリポソームへの相互作用より大きいということが分かった。これより、相互作用がある一定レベルよりも強い場合には核形成が促進されるのではなく、アモルファス凝集が生じやすいということが示唆された。 アミロイドβのアミロイド線維がシナプス近傍でできることで、神経細胞に害を及ぼすという報告がある。本研究結果とこのような報告から、アミロイドβはシナプス小胞と相互作用することにより、線維形成が促進され細胞に影響を与えている可能性が予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究目的は達成され、さらに発展した研究を進めている点で、計画以上に進展していると考える。 アミロイドβの線維形成に、これまで効果がないと報告されていた脂質種が、曲率を変えることによって線維形成を促進することが、本研究により明らかとなった。この研究により、脂質膜を単なるモノとしての膜ではなく、曲率を持ったものとして捉える必要があることを示した。また、この研究をまとめた論文は、査読付き国際誌に受理され掲載された。 この研究の続きとして、アミロイドβの異なる長さのペプチドを用いた研究も行い、長さの違いでどのように線維形成に違いが生じるのかの研究を現在進めている。この研究がさらに進めば、脂質膜の曲率が及ぼすアミロイドβの線維形成機構の詳細がさらに明らかになることが期待される。 さらに、脂質と相互作用するアミロイド形成蛋白質としてαシヌクレインが知られている。この蛋白質は、パーキンソン病に関係する蛋白質である。これまでに、αシヌクレインは負電荷の脂質膜と相互作用するということ、膜の曲率を感知するということが知られている。αシヌクレインは高い曲率の脂質膜と相互作用することによって、N末端側がランダムコイルからαヘリックス構造に変化する。このαヘリックス構造が線維形成において、どのような役割を担っているのかを調べ興味深い結果を得ている。この研究により、αシヌクレインの膜との相互作用がどのように線維形成と関与しているのかを明らかにできることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
アミロイドβには40残基のものと42残基のものがある。本研究では40残基のペプチドを用いて実験を行ってきた。今後は、42残基においても研究を進めていく予定である。42残基は、40残基のものよりも細胞毒性が強いという報告があり、42残基においても脂質膜との相互作用を調べることが非常に重要であると考えるからである。しかし、42残基のペプチドの凝集は非常に速く、どのようにして初期段階で小さな凝集物もなるべく実験系に取り入れないようにするのかが重要となる。その対応策として、十分な時間と速度で遠心を行い、小さな凝集物をとりのぞく、遠心後の溶液をNative pageで確認するなどする予定である。 また、αシヌクレインを用いた研究では、NMRなどの物理化学的な実験手法を通して、脂質膜とαシヌクレインの相互作用様式を明らかにしていく。これによって、どのように膜とαシヌクレインが相互作用しているときに、どのように線維形成に影響を与えるとかを調べることができると考えている。
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Research Products
(5 results)