2013 Fiscal Year Annual Research Report
心理物理実験とシミュレーションによる薄明視下の視知覚変容に関する研究
Project/Area Number |
13J03804
|
Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
吉本 早苗 日本女子大学, 人間社会研究科, 特別研究員(DCl)
|
Keywords | 視知覚 / 薄明視 / 運動視 / 網膜座標 / 環境座標 / 暗所視 |
Research Abstract |
本研究では、環境光の変化によって大きく変容しうる運動知覚に着目し、錐体と桿体が同時に機能する薄明視下の視覚情報統合過程を実験的に推定することを目的とした。本年度は以下の成果を得た。 (1)先行刺激により後続の運動方向が曖昧な多義運動テスト刺激の見かけの運動方向が一義に定まる視覚運動プライミングの効果を様々な環境光レベルにおいて測定した。明所視/暗所視下ではプライミングの効果がみられる一方で、薄明視下ではプライミングの効果が消失することを見出した(国際学術誌1件、国内学会1件)。この結果は、錐体と桿体における時間応答の差が運動知覚をもたらす視覚情報の時空間的統合に影響することを示している。 (2)視覚運動プライミングにおいて、テスト刺激の運動方向知覚が先行刺激と逆方向の場合は低次運動検出機構が関与し、同方向の場合は高次運動検出機構が関与する。この性質を利用し、運動検出機構が機能する座標系と環境光レベルの関係を調べた。その結果、明所視下では網膜上の位置関係に基づく網膜座標で逆方向のプライミング効果がみられ、実世界を中心とした環境座標で同方向のプライミング効果がみられた。この結果は、低次運動検出機構は網膜座標系で機能し、高次運動検出機構は環境座標系で機能することを示している(国際学術誌1件、国内学会2件)。本研究発表により、2013年度日本基礎心理学会優秀発表賞ならびに日本視覚学会2014年冬季大会ベストプレゼンテーション賞を受賞した。また、暗所視下では明所視下と同様の結果が得られたが、薄明視下では環境座標においてプライミングの効果が消失した。この結果は、錐体と桿体の時空間特性の違いにより環境座標系の構築が不完全となることを示している。以上の研究成果については、論文としてまとめ、現在米国の査読付学術雑誌に投稿中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、平成25年度は視覚運動プライミング課題により薄明視下の運動知覚を検討し、学術雑誌への論文投稿を見据え、今後の研究方針を固めるところまでが目標であった。しかし、薄明視において運動統合が生じなくなること、および高次の運動知覚は環境座標系でのみ生じることを実験から見出し、Journal of Vision 誌に査読付原著論文として二本発表するに至った。このことから、当初の計画以上に進展しているといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では、薄明視における視知覚の変容特性を心理物理実験およびシミュレーションにより検討することを目的とする。申請者がこれまでに行った心理実験から、1)錐体と桿体における時間応答特性の違いが運動知覚をもたらす視覚運動情報の統合過程に影響すること、2)錐体・桿体間の情報統合がまだ起きていない段階における視覚運動情報が、その統合過程への入力になることが示唆された。今後は、これまでに得られている心理実験結果に基づいて薄明視のコンピュータシミュレーションを作成し、錐体と桿体が同時に機能する時の視覚メカニズムのモデルの基礎を構築するとともに、研究成果を論文にまとめ、査読付学術雑誌に投稿することを目標とする。
|
Research Products
(7 results)