2013 Fiscal Year Annual Research Report
生体系における自己組織化・秩序化過程の統一的解明-水を主役として-
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13J03866
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
尾嶋 拓 京都大学, エネルギー理工学研究所, 特別研究員(PD)
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Keywords | 溶媒の並進配置エントロピー / 自己組織化・秩序化過程 / 排除体積効果 / 溶質-溶媒多体相関 |
Research Abstract |
糖添加による蛋白質の熱安定性の上昇のメカニズムを溶媒の並進配置エントロピーの観点から解明した。糖濃度を上げると溶媒のエントロピーの溶質-溶媒多体相関の排除体積依存項が支配的になることがわかった。糖添加によって溶媒の混み合いが激しくなり、混み合いを減らすために排除体積の小さい天然構造がより安定になることを意味している。糖の種類による安定性上昇度の違いも再現することができた。多剤排出機構を持つAcrA-AcrB-TolC複合体のうちTo1Cの多剤排出のメカニズムを解明した。溶媒のエントロピーによって薬剤はTolCの中心軸付近でトラップされ、TolC内壁に結合しないことがわかった。TolCの形状を変形させることによって、TolC内部の平均力ポテンシャル場を変化させ、薬剤を排出することができた。この排出機構は溶媒のエントロピーのみで実現できるため、薬剤の極性や荷電性に依存しない多剤性を有している。自由エネルギー関数(溶媒のエントロピー変化と脱水和のペナルティーの和)を用いた新しい熱安定性の指標を用い、アミノ酸の置換によって熱安定性がどの程度上昇または下降するかを予測した。Modellerで残基を置換した候補構造を多数作成し、その中から自由エネルギー関数が最も小さいものを選び、それをミュータントの構造とした。残基の置換による熱安定性の指標の変化と変性温度変化の実測値との間に高い相関があることがわかった。以上の研究成果から溶媒の並進配置エントロピーが蛋白質の折り畳みや機能などの自己組織化・秩序化過程において主要な役割を果たしていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究で、糖の添加効果、TolCの多剤排出機構、アミノ酸置換による安定性変化のメカニズムを溶媒の並進配置エントロピーの観点から解明することに成功した。これらは、自己組織化・秩序化過程において溶媒の並進配置エントロピーが主要な役割を果たしているという我々の考えを指示する結果であり、溶媒の並進配置エントロピーの多体相関成分を基軸とした普遍的な理論体系を構築する上で大きな発展である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、溶媒の並進配置エントロピーの観点から、①塩の添加効果、②ABCトランスホーターの多剤排出機構、③自由エネルギー関数とバイオインフォマティクスの手法を組み合わせた立体構造構造予測法の開発、④アミノ酸置換による熱安定性変化の予測、についての研究を行う。溶媒の並進配置エントロピーが様々な生体系自己組織化・秩序化過程において主要な役割を果たしていることを明らかにし、溶媒の並進配置エントロピーの多体相関成分を基軸とした普遍的な理論体系を構築することを目指す。
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Research Products
(8 results)