2013 Fiscal Year Annual Research Report
多数派民族の「同化」に直面した時における少数民族の行動に関する研究
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13J03883
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
松嵜 英也 上智大学, グローバル・スタディーズ研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 国家の解体 / 分離独立 / 未承認国家 / 国家建設 / ロシア系住民居住地域 / 黒海 / 民族問題 / 沿ドニエストル |
Research Abstract |
初年度では、ソ連解体期のロシア系住民居住地域(モルドヴァの沿ドニエストル、ウクライナのクリミアとドンバス、エストニアのイタヴィル、ラトヴィアのラトガレ)の中で、唯一帰属していた連邦構成共和国から分離した沿ドニエストルを事例として、分離独立を主導した組織である労働集団合同評議会の行動を分析し、以下のことを明らかにした。(1)企業の自主管理機関である労働集団評議会が言語問題を契機として、共和国レベルで労働集団合同評議会が形成した。(2)ソ連邦の解体および連邦からのモルドヴァの離脱という地域秩序が再編される中で、労働集団合同評議会の分離構想は連邦構成主体としての地位に定まった。(3)この構想は、モルドヴァのソ連邦からの離脱と異なる立場であるが、立場の相違は埋まらず、沿ドニエストル紛争の終結を向かえたことにより凍結された。 上記の考察は、「日本国際政治学会、ロシア東欧分科会」にて還元した。ソ連邦から沿ドニエストルへの連続性の観点からは、「ロシア史研究会、ll月定例会」にて還元した。また学会報告に際して先行研究を纏める目的も兼ねて、書評を執筆し「上智ヨーロッパ研究」で掲載された。本研究において、労働集団合同評議会の行動に着目し、分離独立へと至る動員の過程やCIS第14軍介入の誘導などを明らかにしたことは、とりわけ初年度に得られた知見である。 しかしこれらの考察では、用いた資料が偏っているという問題があった。そこで、2月10日から3月8日まで現地調査(ロシア、モルドヴァ、ウクライナ)を実施し、ソ連解体期に沿ドニエストルで発行された新聞資料を入手した。収集した資料や学会報告で頂いたコメント、アドバイスをもとにして学会誌に投稿し、現在査読中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
沿ドニエストルの分離独立過程を考察し、初年度において学会に還元できたことは評価出来ると考えられる。ただし、当初の計画には明記していないものの、未だ研究成果を発表出来ていないことを踏まえ、②おおむね順調に進展しているとしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究課題では、分離独立へと至っていない事例(ウクライナのドンバスとクリミア)の考察を次年度以降の予定としていた。しかし、昨年度の11月後半から、首都キエフでの大規模なデモ、ヤヌコーヴィッチ政権の崩壊とトゥルチノフ暫定政権の樹立、ロシア連邦のクリミア半島の掌握などが生じた。今後の情勢は不透明であるが、クリミアでは事実上としてウクライナからの分離独立が着手されており、ロシア系住民居住地域の中で唯一分離したのが沿ドニエストル、という研究の前提が覆される可能性は高いと考えられる。そこで次年度では、クリミアの現状分析に努め、90年代のクリミアの分離独立の回避と現在のクリミア問題の比較分析を行うとともに、いわゆる事実上の国家である沿ドニエストル共和国の存続をEUとロシアの狭間に位置する黒海地域の秩序維持として捉え、外部主体(ロシア、ウクライナ、OSCE、EU、アメリカ)が関与する和平交渉の実施に着目しその存続を分析することで研究の方向性を修正する。
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Research Products
(3 results)