2014 Fiscal Year Annual Research Report
量子マクスウェルの悪魔とその光格子上の冷却原子気体への応用
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13J04105
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
布能 謙 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-26 – 2016-03-31
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Keywords | 情報熱力学 / マクスウェルの悪魔 / 量子熱力学 / ゆらぎの定理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、量子版マクスウェルの悪魔、つまり量子フィードバック制御でシステムから取り出せる仕事などの一般的な関係式を構築することである。特に、非平衡の分野では、取り出せる仕事やエントロピー生成といった物理量に対して厳密に成り立つ等号関係として、ゆらぎの定理やJarzynski等式といったものが知られている。特に、詳細ゆらぎの定理によって、プロセスの不可逆性と時間発展によって起きる散逸が結び付けられ、RNAヘアピンなどのゆらぎが大きい微小な系に対する熱力学の理解が大きく進んだ。このように非平衡等式は幅広く適用でき、実験的にも検証されてきた。しかし、ガスの自由膨張という基本的な熱力学プロセスに対して、Jarzynski等式が成立しないことが指摘され、その物理的な理由は明確でなかった。 自由膨張では、初期状態が空間の一部に局在し、時間発展によって空間全体に状態が広がると自由エネルギーを失うにもかかわらず仕事を得ることができず、散逸がおきる。我々はこのような状況を絶対不可逆な過程と名付け、それに伴う散逸を与えた。特に、私は量子系で自由膨張のように、絶対不可逆性がある場合でも非平衡等式が成立するように拡張し、そのプロセスで起きる不可避な散逸について特徴づけた。 私は、同様の問題がフィードバック制御でもおきることに注目し、フィードバック制御で絶対不可逆性がある場合にJarzynski等式を導いた。特に絶対不可逆性がある場合、その不可逆性に伴う散逸の分だけ、フィードバックの効率が落ちることを明らかにした。また、測定過程に絶対不可逆性がある場合、測定に伴うコヒーレンスの破壊によって散逸がおきることを指摘した。さらに、システムの制御効率を上げるために、絶対不可逆な過程が小さくなるような制御プロトコルの条件を求めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、量子版マクスウェルの悪魔、つまり量子フィードバック制御でシステムから取り出せる仕事などの一般的な関係式を構築することである。その際、測定やフィードバックの効率を考える際、絶対不可逆性の特徴づけと、それに伴う散逸の理解は重要な役割を果たす。本研究ではこのような状況でも成立する非平衡等式を構築し、不可逆性の物理的な意味を明らかにした。また、散逸を抑えるためのプロトコルを与える指針について議論した。以上より、量子フィードバック制御に対して熱力学的な限界の定量化ができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究では、フィードバック制御を理想的に行う場合、操作を準静的に行う必要があった。実際に量子マクスウェルの悪魔を実験で実現させるためには、有限の時間で制御を行う必要がある。そこで、量子断熱定理に従う、準静的プロセスをショートカットする手法を与えるShortcut to adiabaticityのアイディアをもとに、等温準静過程をショートカットする方法を考える。
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Research Products
(6 results)