2014 Fiscal Year Annual Research Report
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13J04115
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
杉江 あい 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 共同性 / 同一性 / 宗教 / カースト / ヒンドゥー / ムスリム / 物乞い / バングラデシュ農村 |
Outline of Annual Research Achievements |
26年度は,バングラデシュ農村の対象地域における20世紀以降の社会変動に伴い,ヒンドゥー・ムスリム間の関係,およびショマージ(紛争解決や宗教行事をおこなう共同的なまとまり)がいかに変容してきたのかを明らかにし,投稿論文としてまとめた.20世紀初頭,ショマージは地縁やカーストを基盤として形成されていたが,印パ分離独立以降のヒンドゥー人口の流出とムスリム人口の流入により,地縁に基づかず,血縁や派閥等によるまとまりを形成していた.司法的機能は宗教やショマージ,村を越えて共同的に行われていたのに対し,各宗教行事はショマージごとにおこなわれていた.資源動員の単位であるショマージでは,宗教やカーストの同一性に基づいてメンバーシップが条件づけられており,排他的なまとまりを形成していた.一方で,物乞いに対する施しは宗教やカースト,村を越えて広く見られた.支配的な知の様式やイデオロギーと,地域の(ローカルな)社会的分断や不平等がいかに結び付いているのか,またそれらが住民の間でいかに捉えられ,再帰的に捉えなおされているのか,また,同じ空間の共有により,同一性の政治学を超えた共同性がいかに生成しているのか(あるいは,いないのか)を検証することにより,動態的に生成する一貫した同一性に基づかない共同性,同じ空間を共有することから生成する共同性の可能性と限界を,実証的に描き出した.バングラデシュ農村の社会変動における共同性の変容と再編を明らかにした26年度の成果は,従来研究において共同体や場所,ローカルなものに対してなされている両義的な評価や議論を批判的に検証し,共同性概念を再構築することに寄与しうる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
文献調査では,近年のコミュニティ論や場所論に関する諸分野の研究の動向や南アジアにおける宗教とナショナリズム,イスラーム化,カーストをめぐる議論を順調に整理している.一方で,対象地域をどのように位置付け,扱う事例がバングラデシュ,南アジア,ひいてはアジアを対象とした地域研究のなかでどのような意味を持つのかを考えることが課題となっている. 現地調査では対象地域におけるフィールドワークを順調に進めているが,26年度の調査では対象地域の県庁のレコードルームに所蔵されている地籍台帳の閲覧許可が下りなかったため,27年度の調査において再度申請することを計画している.
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Strategy for Future Research Activity |
文献調査では,引き続きコミュニティ論や場所論に関する諸分野の研究の動向や南アジアにおける宗教とナショナリズム,イスラーム化,カーストをめぐる議論を整理していくとともに,他の地域における研究を整理する.他の地域の事例と本研究の対象地域における事例を比較し,本研究の事例の一般性と固有性を検討にすることによって,対象地域の位置づけと,その地域を研究する意義を明確にする. 27年度は8~9月に現地調査をおこなうことを計画している.物乞いと施しの慣行についての調査をすすめるとともに,物乞いと施しの慣行のほかに,宗教やカーストを越えた共同性が認められる事例について調査をおこなう.また,対象地域の県庁のレコードルーム所蔵の地籍台帳の閲覧により,20世紀初頭の対象地域における土地保有状況を明らかにする.
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Research Products
(4 results)