2014 Fiscal Year Annual Research Report
慢性ストレスによる前頭前皮質の機能変化の分子基盤とその役割
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13J04246
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
篠原 亮太 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ストレス / ドパミン受容体 / 前頭前皮質 / 情動行動 / うつ病 |
Outline of Annual Research Achievements |
過度のストレスやストレスの遷延化は、抑うつや不安亢進など情動変容および作業記憶や行動の柔軟性の低下など認知機能障害を引き起こし、精神疾患のリスク因子ともなる。慢性ストレスは前頭前皮質神経細胞の機能低下や形態の萎縮を引き起こし、この変化がストレスへの感受性を高めると考えられているが、そのメカニズムや作用機序は不明である。本研究はストレスによる神経回路の機能・構造変化の分子基盤を解明し、脳恒常性の維持・破綻機構に迫ることを目的としている。 平成25年度は、反復社会挫折ストレスにより前頭前皮質のドパミンD1受容体の発現が有意に減少すること、前頭前皮質神経細胞におけるD1受容体の発現阻害は社会挫折ストレスによる社会的忌避行動の誘導を促進することを示した。平成26年度はこの実験の精度をさらに高め、前頭前皮質のD1受容体の発現阻害による社会的忌避行動の促進はRNA干渉に耐性を示すD1受容体の変異体の共発現により正常化されることを示した。さらに、前頭前皮質の神経細胞種特異的なD1受容体の発現阻害を行い、前頭前皮質興奮性神経細胞がD1受容体の作用部位であることを示した。次いでD1受容体が作用する分子機序を調べるために脳領域特異的な網羅的遺伝子発現解析を行った。その結果、社会挫折ストレスにより細胞形態制御因子の発現が前頭前皮質で多数変動すること、その変動の一部がD1受容体依存的であることを見出した。さらに、ストレスによる前頭前皮質神経細胞の形態変化にD1受容体が関与する結果も得られつつある。これらの結果は、ストレスと関連が深い精神疾患の創薬に前頭前皮質のドパミンD1受容体が標的分子となることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的はストレスによる神経回路の機能・構造変化の分子基盤を明らかにすることである。これまでに組換えウイルスベクターを用いた脳領域・神経細胞種特異的な遺伝子発現制御法を確立し、前頭前皮質興奮性神経細胞のドパミンD1受容体が社会的ストレスによる抑うつ行動の誘導を抑えることを見出した。しかし、D1受容体がストレス抵抗性をもたらす作用機序の同定には至っておらず、今後の課題である。また、脳領域特異的な網羅的遺伝子発現解析から、社会的ストレスにより細胞形態制御因子の発現が前頭前皮質で多数変動すること、その変動の一部がD1受容体依存的であることを見出した。しかし、これらの遺伝子発現変化とD1受容体によるストレス抵抗性の付与との因果関係は不明であり、今後の検討課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
神経細胞種特異的なD1受容体の発現阻害から、前頭前皮質興奮性神経細胞のドパミンD1受容体がストレス抵抗性に重要であることを見出した。しかし、前頭前皮質には性質や投射部位の異なる神経細胞が多数存在し、どの細胞でD1受容体シグナルが機能するかで神経回路への影響は大きく異なる。このため神経投射特異的な遺伝子発現制御法を立ち上げて、D1受容体がストレス抵抗性を付与する前頭前皮質内外の神経回路の同定を試みる。脳領域特異的な網羅的遺伝子発現解析法からD1受容体依存的に発現変動する細胞形態制御因子を同定した。今後はこれらの遺伝子の発現や機能を脳領域・神経細胞種特異的に操作して、D1受容体による前頭前皮質神経細胞の形態制御に関与するかを検討する。
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