2014 Fiscal Year Annual Research Report
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13J05169
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大鳥羽 暢彦 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 山辺の問題 / スカラー曲率 / ファイバー束 / 国際研究者交流 / メキシコ |
Outline of Annual Research Achievements |
8月29日から10月24日までメキシコの CIMAT (数学研究所) に滞在して同研究所所属の Petean 教授と共同研究を行った. 今年度の研究実績を滞在前と滞在後に分けて述べる.
滞在前の出張は The 5th International Workshop on Geometry and Analysis (唐津, 5/31-6/4) や幾何学シンポジウム (名城大学, 8/23-8/26) などの研究集会への参加にとどめた. 4月から8月までは, 2ヶ月間の滞在で Petean 教授との共同研究が可能な限り進捗するように, 論文と書籍の理解や指導教員とのセミナーを通じて自らの研究を進めた. また, 自身の研究に利用することを目指して, Schwetlick-Struwe (2003) や Brendle (2005, 2007) らによる山辺フローの収束に関する結果を学んだ.
メキシコ滞在中は, Petean 教授との議論を通じて思いがけない方向に研究が進展した. 私の論文 (2014) と Petean 教授の論文 (2010) 両方の続編ととらえられる共著論文を現在執筆中である. 滞在中に得られた結果については研究集会 Geometry of Moduli Spaces of Low Dimensional Manifolds (京都大学, 12/7-12/12), リーマン幾何と幾何解析 (筑波大学, 3/6-3/7) などで講演した. ワークショップ Winter School on Scalar Curvature and Related Problems (シンガポール, 12/16-12/19) では X. Cheng 氏による山辺フローの見事な応用に関する講演を聴いて直接質問した. 山辺フローは私の今後の研究に現れる予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CIMAT (メキシコ) での Petean 教授との共同研究を経て, 申請当初のもくろみ通り研究を進める難しさを認識した一方で, 予想していなかった方向に研究が発展している. そのため, 本研究はおおむね順調に進展していると考える.
Petean 教授を訪ねたのは, 直積多様体と山辺の問題に関する既存の理論を一般のファイバー束も対象となるように拡張することで, より実り豊かな数学を展開するためであった. 本研究費の支援を受けて作成した論文 Constant scalar curvature metrics on Hirzebruch surfaces (2014) において構成した具体例はそのための試金石であると我々は認識している. それらの具体例に対して直積の場合と同程度の理解が得られたことで, この方向性で研究を進めると (直積に対象を限定するよりも) さらに興味深い数学に遭遇するという実感を得た. なお, メキシコ滞在中に得られた結果に関する Petean 教授との共著の論文を近いうちに投稿する用意がある.
当初は山辺の問題に現れる汎関数の最小点の本質的な一意性に主に興味を持っていたが, 現在では臨界点の一意性および多重性にも注目している. 具体例を詳しく解析することで, (特別な場合には) ラプラシアンの固有値とスカラー曲率に関する不等式と, 山辺方程式の解の個数に興味深い関係があることを認識した. この関係に注目すると, (一般に) 山辺方程式の解全体の空間に関する新たな視点, そして特に山辺汎関数の最小点全体の空間に関する情報が得られることを期待している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は二つの方向性に沿って山辺方程式の解の一意性と多重性に関する研究を進めていく.
まず, 具体例に端を発する数学を引き続き発展させていく. すなわち, 小林治 ('85, '87), Schoen ('89), Petean (2010), Petean--Henry (2014) らによる二つの球面の直積に対する議論を, より一般の捩れた球面束に定義された計量に対しても適用できるように拡張する. 私のこれまでの研究では, 解析すべき偏微分方程式に適当な対称性を課して常微分方程式に帰着して精密な情報を取り出すことが多かった. しかしながら, 今後は本格的に偏微分方程式を取り扱うことになるので, 必要ならば解析の専門家とも議論を行う.
上に述べた研究の方向性はいわば「ボトムアップ」であるが, 今後は「トップダウン」の数学も展開する. すなわち, もともとの問題意識を抽象化して興味深い問題を導出したので, そのより一般的な問題の解決を目指す. この問題が肯定的に解ければ, 小林治, Schoen, Petean, Piccione らにより今まで散発的に観察されてきた, 山辺方程式の解の多重性と山辺汎関数の Morse 指数に関する結果を統一的に理解することができる. この問題を解決するにあたっては山辺フローの一般化が本質的な役割を果たすので, 2014年度に進めてきた山辺フローの収束に関する結果 (Schwetlick-Struwe 2003, Brendle 2005, 2007) の理解をさらに深めることが欠かせない.
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