2013 Fiscal Year Annual Research Report
承和期の彫刻にみる密教思想の研究-東寺講堂諸像の歴史的意義をめぐって-
Project/Area Number |
13J05203
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高橋 早紀子 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 東寺 / 密教 / 鎮護国家 / 神仏習合 / 神像 / 八幡 |
Research Abstract |
本研究の目的は、承和期(834-848)を代表する密教彫刻である東寺講堂諸像を中心として、空海の密教思想や王権思想、神仏習合思想が日本彫刻史に与えた影響とその歴史的意義を提示することにある。 第一年度は、東寺鎮守八幡宮に伝来した八幡三神像を研究対象とし、神像彫刻の成立における密教の影響を思想的観点および図像的観点から分析した。 まず、東寺八幡三神像のうちの女神像一体が「国宝大神社展」に出品された際に東京国立博物館で詳細に実見し、第66回美術史学会全国大会で「東寺八幡三神像に関する彫刻史的考察」と題する口頭発表を行い、次の点を明らかにした。すなわち、東寺八幡三神像が天皇や院宮王臣家を願主とする九世紀第三四半期の密教彫刻と類似することに着眼し、その制作に幼帝清和天皇・外祖父藤原良房・真言密教僧真雅の関与を指摘することにより、東寺八幡三神像が鎮護国家を目的として造像されたものであるとの見解を示した。さらに、日本史学の研究成果を参照し、『日本三代実録』および『東宝記』を精読することにより考察を深め、東寺八幡三神像が八幡神の擁護する清和朝という観念を前提としつつ、貞観十一年(869)の神国意識を直接的な契機として制作されたものであるとの見解を提示し、東寺八幡三神像が当該期の王権思想や密教思想を踏まえて理解されるべき神像彫刻であることを明らかにした。この研究成果は「東寺八幡三神像の制作背景に関する考察」と題して、『美術史』177に掲載される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究の目的と実施計画に基づいて口頭発表や論文投稿を行い、東寺八幡三神像の制作背景に関する新解釈を提示するという成果を挙げており、研究は順調に進展していると判断される。こうした当初の計画に加え、本研究課題と関わる神護寺五大虚空蔵菩薩像にっいての論文を執筆するなどの研究業績を挙げているため、当初の計画以上に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は研究の目的と実施計画に基づいて順調に進展しているため、今後も当初の研究計画に従って着実に研究を推進していく。 具体的な方策としては、東寺講堂諸像の調査を行うとともに、密教思想および王権思想に関する文献史料を精読し、東寺講堂諸像が五相成身観という観法の本尊であり、その思想的背景に即身成仏思想と鎮護国家思想という密教の二大中心思想が関連していることを実証する。特に、四天王中の多聞天に新たな兜跋毘沙門天形が採用されていることに注目し、これまで積極的な解釈がなされてこなかった四天王・梵天・帝釈天の位置づけを含めた二十一尊全体の密教的解釈の提示を試みる。
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Research Products
(5 results)