2014 Fiscal Year Annual Research Report
フランスの困難地域における包括型生活支援の成立条件
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13J06131
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
徳光 直子 一橋大学, 社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 社会政策 / 社会福祉 / 監視 / 生活困難 / 公共空間 / フィールドワーク / フランス / 国際情報交換 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成25年度は「福祉の仲介活動」が「包括型生活支援」だけではなく生活困難地域を「監視」する役割も同時に担っていることを確認した。これをもとに平成26年度は、「地方自治体の政策が、仲介活動の2面性(福祉と監視)にどのように影響しているか」という点について考察を行った。同時にこのような二面性を持つ仲介活動が成り立つ政策的背景を明確にするため、日本との対比軸からフランスの特性を探った。その結果、次の2点が明らかになった。なお、仲介活動は地域住民が抱える「生活不安」の解決を活動目標としており、その不安とは経済的な脆弱性だけでなく、生活空間・環境への不安も含んでいる。 第1に、日本の政策における「生活不安」は「安全安心のまちづくり」の枠組みのなかで扱われ、その原因として地域コミュニティの機能低下が挙げられるのに対し、フランスでは「生活不安」の原因が公権力と地域住民の乖離にあるとされていることが確認できた。そのなかで、仲介活動は「公権力が住民の生活を保護する」メッセージを発信する中間的な役割を担っており、住民が安心して生きるための権利回復を第一の課題として認識していることが明らかになった。以上の事から仲介活動は「セキュリティの権利」を中核としており、生活不安を訴える者には権利の認知を、権利を脅かす存在には監視を行っていることが確認できた。 第2に、権利付与と監視の連関には、地方自治体の若者に対する認識が影響していることを明らかにした。特に地方自治体が若者個人に責任を求める傾向が強いほど、取り締まりによる公共空間の治安維持が求められる。それに対し、地方自治体が公的機関の責任を問う場合は、生活困難者個人への「包括型生活支援」が行われる傾向が強いことを確認した。なお、後者の場合には行政組織が仲介活動に活動方針の独立性を認め、地域の専門家集団との連携を促す傾向が強いことが見受けられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度に実施予定であった、(1) 仲介活動の行政組織への依存度、および、(2) 仲介活動と地域の専門家集団のパートナーシップ、の分析を終了した。研究成果に結びつく知見が順調に深まりつつある。 (1) の「仲介活動の行政組織への依存度」 に関しては、平成25年度の調査で絞り込んだ4都市(パリ、トゥーロン、ラロシェル、レンヌ)それぞれにおいて、仲介活動責任者および自治体の担当者に半構造化インタビューを行った。また、仲介活動での参与観察を実施し、自治体と仲介活動実践者がどのように情報共有を行っているのか分析をした。さらに各自治体で得た資料から、治安政策・雇用政策・福祉政策がそれぞれ仲介活動に及ぼす影響を考察した。その結果、仲介活動が自治体が行う軽犯罪予防対策の影響を最も受けていることを確認したことから、1990年代以降の政策変遷を分析した。 (2) の「仲介活動と地域の専門家集団のパートナーシップ」 に関しては、地域で仲介活動に対する信頼が構築された背景に注目をし、同4都市にて自治体の軽犯罪対策課、地域の福祉・教育・雇用サービス実践者、警察、低所得者賃貸住宅管理会社に半構造化インタビューを行った。また、これらの代表者が出席する軽犯罪対策会議の記録を分析した。 (1) と (2) の調査に加えて、仲介活動がフランスで成り立つ理由を考察するため、1990年代以降の日本とフランスにおける政策変遷の比較を行った。以上の成果を平成26年7月第18回ISA世界社会学会議 (横浜)、平成26年12月都市社会学ビエンナーレ(リール、フランス)、平成27年3月モーリスアルバックス研究所研究会(パリ、フランス)で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に引き続き以下の作業を実施する。 (1) 仲介活動実践者に対する意識調査 : 4都市(パリ、トゥーロン、ラロシェル、レンヌ)において仲介活動実践者に対し聞き取り調査を行う。特に、仲介活動を選んだ背景、職業的価値観、社会的統合に対する意識について掘り下げていく。
(2) 軽犯罪予防政策の国際比較 : 仲介活動の政策的基盤は軽犯罪予防政策にあり、生活困難者と地域の社会的紐帯を強化し社会に包摂することによって、問題解決を目指していることが特徴である。社会的紐帯に重きを置いたアプローチはフランスだけでなく、アメリカ、イギリス、オランダでも行われ、日本の軽犯罪予防政策においても地域の連帯、さらには福祉面の重要性が強調されつつある。よって平成27年度は国際比較を行い、フランスで仲介活動が成立する背景を明らかにする。具体的には文献調査による多国間比較を行うほか、日本で質的調査を行い日仏比較を実施する。
(3) 既存研究のレビューと調査結果の整理 : (1)と(2)の作業から得られた結果を分析しまとめる。また、福祉、治安、都市、貧困、専門職に関する先行研究を渉猟し、本研究の意義を明確にする。特に「包括型生活支援」の基盤と考えられるセキュリティへの権利概念がフランスにおいてどのように構築され、実現されているのかを分析する。
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Research Products
(3 results)