2013 Fiscal Year Annual Research Report
黄色ブドウ球菌ヘム輸送蛋白質群を標的とした実験科学・計算科学両面からの阻害剤開発
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13J06526
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森脇 由隆 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 分子動力学 / 構造生物学 / ヘム / 蛋白質化学 / 病原性細菌 |
Research Abstract |
当研究目的は黄色ブドウ球菌の細胞壁上に存在するIsd systemのヘム輸送機構の解明およびその阻害剤開発についてである。このヘム輸送機構は、黄色ブドウ球菌にとっての必須栄養素である鉄原子の獲得のために必要不可欠なコンポーネントであると言われている。当研究は、2002年に発見されたこのIsd蛋白質間における高速なヘム輸送がどのようにして行われているかを構造生物学と分子動力学シミュレーションの見地から解明していくものである。今年度の成果として、分子動力学の手法を用いることで、構造的にとてもよく類似しているIsd蛋白質の間で行われる効率的なヘム輸送が、一部の重要な残基の違いによって行われていることを発見したことを挙げる。この発見をもとに生化学的な実験における変異体解析を用いて検証したところ、確かに計算結果と一致していることを示した。また、この結果はIsd蛋白質間におけるヘム輸送が純粋な結合定数の比にしたがって分配されること、すなわち平衡論的なものであることを表していた。以上の結果はBiochemistry誌の査読の末、公開されている。 続いて、Isd間の高速なヘム輸送について蛋白質間の相互作用を解明すべく、分子動力学シミュレーションを用いて蛋白質同士のドッキングを試したところ、2つの異なるIsd蛋白質がヘムに同時に結合しながらドッキングできる中間体構造の候補を発見することができた。現在はこの構造を実験的に検証することを進めており、また、このヘム受け渡し構造が正しいと仮定した上で、ヘムの輸送、すなわち鉄原子の獲得を阻害するような有機小分子の開発および試験を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シミュレーションによって見つけられた蛋白質同士のドッキング構造の知見は、現在実験的な証拠は少ないものの鉄獲得阻害剤の開発にとって非常に有力な情報である。また阻害剤の開発も進んでおり、1年以内に研究実施計画に記した内容の試験は十分可能であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
先述のドッキング構造から実際にヘムが輸送される部分を考察するべく、量子化学計算と分子力学のハイブリッド法であるONIOM法を用いて詳細に化学反応を検証していくことを試みる。この完成の暁には、私達の知る限りこれまで未知であった新たな生体内でのヘム結合蛋白質による化学反応および輸送機構を提唱することができ、学術的な意義は大きい。一方、阻害剤についての戦略も先述のまま並行して進める予定である。
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Research Products
(5 results)