2013 Fiscal Year Annual Research Report
熱帯島嶼河川における種多様性創出機構の解明:両側回遊性アマオブネ科貝類を例に
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13J06758
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福森 啓晶 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 腹足類 / 分類学 / 進化 / 分子系統 / 生物地理 / 海流分散 / 初期発生 / 通し回遊 |
Research Abstract |
熱帯島嶼河川では、淡水で孵化した幼生が海へ下り、数ヶ月かけ成長したのち、河口付近で着底して川を遡る両側回遊を行う動物が卓越する。一方で、熱帯性両側回遊動物の自然史、ことに種分類に関する研究は少なく、多様性の評価自体が困難となっていた。そこで、本研究では、形態・分子・発生・生態を含めた多面的な情報をもとに、河川性アマオブネ科貝類の種分類を中心とした自然史の包括的解明を行った。 これまでに得られたインド・太平洋各地の標本を対象に、殻及び蓋が形態的に異なる型を選出し、ミトコンドリアCOI遺伝子の642塩基対を決定した。その後、得られた塩基配列を基に、既存のデータと合わせ系統樹の構築を行い、殻形態との比較により、個体間の遺伝的距離と形態的差異の把握を試みた。その結果、殻形態による種分類が可能となり、各種の分布は広く、種内の遺伝的変異も小さいことが判明した。 オーストラリア博物館において、模式標本を確認、写真の撮影を行った。また、これまでに撮影された各国主要博物館所蔵模式標本の写真と合わせ、その整理を進め、有効学名を選出した。 アマオブネ上科貝類のほぼ全属を網羅する約60種を対象に、ミトコンドリア(COI、16S & 12S)および核DNA (28S)の塩基配列を決定し、系統樹を構築した。系統解析の結果、浅海起源である同上科において、回遊の進化が2回以上起こったことが示された。また、化石記録を用いた分岐年代推定により、アマオブネ科において両側回遊の獲得は遅くとも白亜紀には起こっていたことが判明した。 着定直後の稚貝標本を用い、EPMAによる幼生時の殻(原殻)のSr/Ca解析を行い、生活史推定を試みた。その結果、原殻では高いSr/Ca比が見られ、親の殻では非常に低い値を示した。同解析は、アマオブネ類の回遊履歴推定に有効であることが考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子・形態情報を用いた分類の再検討により、インド太平洋各地における河川性アマオブネ類の種多様性が明らかとなってきている。また、模式標本・文献調査により、各種の有効学名を選出することができた。分子系統解析およびEPMAを用いた微量元素分析についても結果が出揃いつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、国内・国外における採集によって新たに得たサンプル・博物館から貸借した標本を中心に、ミトコンドリア・核遺伝子での塩基配列決定と分子系統樹の構築を行う。模式標本調査を継続し、各国博物館に借用・写真供与の依頼を行う。幼生の生活史および分散の推定のため、電子顕微鏡を用いた殻・蓋の形態計測とEPMAによる原殻Sr/Ca解析の手法を確立する。得られた結果は、論文化を進め、系統学・生態学・軟体動物学等の関連雑誌に研究成果を順次投稿していく。
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Research Products
(4 results)