2014 Fiscal Year Annual Research Report
恒星の高分散分光観測にもとづく銀河系化学力学進化の解明
Project/Area Number |
13J07047
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石垣 美歩 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 銀河系ハロー / 金属欠乏星 / 化学組成 / 矮小銀河 / 初代星 / 超新星爆発 / 元素合成 / 高分散分光観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、金属欠乏星の化学元素組成にもとづく宇宙初期の元素合成・化学進化に関する研究の一環として、今年度は主に以下の2つのテーマに取り組んだ。 (1)超低金属量星の化学組成から探る初代星の元素合成: 初代星は宇宙で最初にできた星々で、宇宙で最初の重元素合成をになったほか、宇宙再電離など宇宙初期の環境に多大な影響を及ぼしたと考えられているが、その典型的な質量がどのくらいだったのかは、未だに議論の的になっている。初代星の質量について貴重な手がかりとなるのが、初代星による元素合成を色濃く反映しているとされる超低金属量星の化学元素組成である。なかでも最近見つかったこれまでで最も鉄の組成が低い星は、初代星に対する新たな制限になりうるということで注目を集めている。我々はこの星の示す特異な化学組成に着目し、この星の組成が初代星の超新星爆発放出物で再現できるかどうか、初代星元素合成計算との比較にもとづいて検証した。その結果、観測された組成は、初期質量25-40太陽質量をもつ初代星の超新星爆発において、星の外側の大部分が中心部へ降着し、ブラックホールとなる場合に期待される組成で説明できることを示した。 (2)Draco 矮小楕円銀河のrプロセス元素組成: Draco 矮小楕円銀河は我々の銀河系の衛星銀河のひとつで、主に金属欠乏星からなりたっていることから、宇宙初期の元素合成および化学進化の手がかりとして格好の天体である。なかでも未だにはっきりしていないrプロセス元素合成の候補天体に対して、強い制限が得られる可能性があるとして注目されている。我々はDraco矮小楕円銀河に含まれる3つの赤色巨星について、すばる望遠鏡高分散分光器で取得されたスペクトルに基づいて詳細な化学組成解析を行った。その結果、rプロセス候補天体の特定にとって重要なユーロピウム組成について、これまでより高い精度で制限が得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、観測から得られる金属欠乏星の化学組成データと星進化・超新星爆発における元素合成の理論計算を組み合わせることで、宇宙初期の元素合成・化学進化に対して制限を得ることを目指している。この課題に関連して、これまでに主に(1)超低金属量星の化学組成から探る初代星の元素合成、(2)矮小楕円銀河に含まれる金属欠乏星の化学組成(3)球状星団Palomar 5の恒星ストリームから探る銀河系ハローの力学構造 について取り組んできた。 このうち(1)では、最近見つかった知られている中でもっとも金属量の低い星の化学組成から、その星の材料となった星間ガスがどのような初代星によって元素汚染されたかを検証した。結果として初期質量25あるいは40太陽質量の初代星であれば観測された化学組成を説明できることが分かった。この成果はAstrophysical Journal Letter 誌に投稿・受理され、天文学会春季年会でも報告している。今後、初代星の典型的な質量に対してなんらかの制限が得られるかさらに研究を進めていくうえでの大きな一歩となった。 (2)ではDraco 矮小楕円銀河の化学組成をすばる望遠鏡高分散分光器HDSによる観測をもとに調べ、rプロセスで合成されるユーロピウムの化学組成について、これまででもっとも精度よい制限ができた。この結果の一部を報告した論文はPublication of the Astronomical Society of Japan誌に受理された。より詳細な結果と議論を含んだ論文を現在執筆中である。 (3)ではKeck望遠鏡多天体分光器DEIMOS を用いて取得した金属欠乏星からなる球状星団とそれに付随する恒星ストリームの化学力学解析を行っている。現在解析の最中であり、今年度中の論文化を目指している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度までの研究を発展させて以下の研究に取り組む。 (1)超低金属量星の化学組成から探る初代星の元素合成: 先年度までの研究では、最近見つかったもっとも金属量の低い星の化学組成を用いて、初代星の質量について制限が得られた。超低金属量は、近い将来、より遠く広範囲にわたる銀河系サーベイによって、新たに見つかることが期待されている。今後はよりたくさんのサンプルを含めた統計的な解析から、初代星の典型的な質量にどれほど制限がつけられるか、定量的に評価することを目指す。 (2)矮小楕円銀河に含まれる金属欠乏星の化学組成: 先年度までの研究で、銀河系の衛星銀河のひとつであるDraco矮小楕円銀河のユーロピウム元素組成を観測にもとづいて決定し、ユーロピウムを含むrプロセス元素の起源について議論した。今後は他の元素(α元素、鉄ピーク元素、sプロセス元素)を含めた解析により、Draco矮小楕円銀河の化学進化についてより強い制限を得ることを目指す。 (3)球状星団Palomar 5の恒星ストリームから探る銀河系ハローの力学構造:先年度までの研究では、球状星団Palomar 5とそれに付随する恒星ストリームの中分散分光観測から、星の視線速度と金属量を測定する手法を開発した。今年度からは、測定された星の金属量を用いて、恒星ストリームのメンバーである星を他の銀河系ハロー星から分離する手法を構築する。恒星ストリームのメンバーと同定された星を使って、銀河系重力ポテンシャルに制限を得ることを目指す。将来すばる望遠鏡に装着される多天体分光器PFSによって、恒星ストリームを用いた銀河系力学構造の研究へと発展させる道筋をつける。
|