Research Abstract |
本研究は近代木造建築の構造性能評価指標の確立のための基礎的研究として, 地域的な特性を加味した構法の把握による類型化と, 構造性能検証に基づく構法類型の定量的検証を目的としている. 具体的には, ①構法と法制度の変遷の文献調査, ②各地域における近代木造構法の受容過程の実測調査, ③これらを踏まえた構造実験と, 解析モデルの構築を行う予定である. 本年度は, i)まず近代木造建築構法の変遷に関する文献調査(既往研究・報告書の精査, 建築関連法制度の変遷に関する調査, 構法変遷に影響を与えた可能性のある災害事例の調査)を実施し, 各部構法の変遷に関する枠組みの設定を試みた. 災害に関しては『日本建築構造基準変遷史』(大橋雄二, 1993, 日本建築センター), 『震災予防調査会報告書(~昭和7年)』を中心に, 法制度の変遷, 背景となった災害, 技術, 理論の変遷に関する基礎的な情報をまとめた. 修理工事報告書に関しては, 福島・宮城・岩手・山形を中心に重文指定建物の報告書計20冊程度を新規に収集・分析し, 各部構法の変遷過程のモデル化を行った. また, 並行してii)2011年東北地方太平洋沖地震後の近代木造建築の修理現場調査・聞き取り調査等を計6回実施し, 壁・小屋組内部の仕様の確認・実測からより厳密に構法の把握を行った. 福島県内に特に着目し, 4回の実測調査から仕様とその変化を記録し, i)の変遷の考察に反映するとともに, 以下iii)の解析モデルへの反映を行った. さらに, iii)解析的検討に関しては, 福島県所在旧伊達郡役所を事例として, 木造の倒壊解析に有用である個別要素法を用いたプログラム(Wallstat)による耐震性能の検討を行い, 過年実施済みの被害調査結果との比較から, その耐震性能について検証し, 今後の解析の方向性と, 特徴的な被害の要因を確認し, 次年度以降の実験・解析に置いて着目すべき点(木摺漆喰壁, 石積基礎)を明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は, 文献調査に関しては, 予定していた文献に加えて, 災害関連の文献に関して新たな一次資料(震災復興叢書など)を含めた広範な調査に基づいた分析を行うことができた. また, 現地調査に関しても, 震災復旧に伴う修理工事が多く行われていたため, 当初の想定より踏み込んだ実測調査が可能となり, 寸法等に関する文献では得られない情報を入手することができた. また, 次年度以降に予定していた解析的検討に関しても, 既に予備的な検討を通して, 今後の実験計画に資する知見を得ることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は, 本年度に行った文献調査による構法変遷の簡易なモデルを, 実測調査・現地調査の結果と対照する形で一般性と特殊性を明らかにしたうえでまとめる. また, 本年度の実測調査および解析結果から明らかになった, 近代木造の構造性能における重要な要素である木摺漆喰壁, 及び石積基礎に関する実験計画を行い, 具体的な実験の実施を行う予定である.
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