2013 Fiscal Year Annual Research Report
窒素固定ホットスポットにおける生物多様性とその要因
Project/Area Number |
13J07341
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塩崎 拓平 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 島効果 / 窒素固定 / Trichodesmium属 |
Research Abstract |
平成25年度は本研究の目的の一つである、窒素固定ホットスポットの海洋生熊系における重要性を明らかにする点において大きな発見があった。熱帯・亜熱帯貧栄養海域は表層における栄養塩供給が極めて乏しく、生産の低い不毛な地域というイメージから「海の砂漠」と比喩されている。この貧栄養海域の中でも島付近では基礎生産が活発になり、また魚類生産も高まることが古くから知られていた。この現象は「島効果」と呼ばれ、この要因は島に定常流がぶつかることによって島影に湧昇が生じるためであるとこれまでの間考えられてきた。これに対し、本研究では西部南太平洋貧栄養海域において窒素固定によって駆動される島効果のプロセスが存在することを発見した。本研究では現場観測と衛星データ解析を組み合わせることで、窒素固定性シアノバクテリアのTrichodesmium属がこの島付近で雨期の河川流出がきっかけで増殖することを示した。Trichodesmium属は窒素固定を行いながら島から外洋域に広がっていく。これによって広範な海域で窒素供給が行われることとなり、基礎生産が上昇すると考えられた。調査海域の島の面積は四国と九州を足したほどであったが、島周辺での基礎生産が上昇する海域は控えめに見積もっても日本国土の約6倍に当たる面積を占めた。この現象は調査海域だけではなく、他の貧栄養海域の島周辺でも起こっている可能性がある。この広大な生態系の形成は陸域からの栄養塩の供給によって起こる。この点が従来の定説であった湧昇による島効果と大きく異なる。湧昇による島効果は人間活動の影響を受けないが, 本研究で発見した島効果は島での人間活動の影響をうけることから、土地利用の変化が広大な海域に影響する可能性がある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画の当初、窒素固定ホットスポットが周辺海域の生態系に影響を及ぼしているというところまでは予測していた。しかし、本年度に発見したように、雨期の河川流入がきっかけとなって窒素固定が活発となり、それによって広汎な海域の生産に影響を及ぼすというような、陸と海の連関までは予測していなかった。本年度で得た成果は島での人間活動が海洋生物生産に影響を与える可能性を示したことから、海洋保全を議論する上でも重要であると考えられ、この発見を契機に様々な研究分野の発展が期待される。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、本研究で発見した窒素固定によって駆動される島効果が他にどの海域で起こっているのかを明らかにする。衛星データとこれまで行った実海域での観測データの解析が主になるが、本年度は海洋物理の専門家に協力を仰ぎ、島からのTrichodesmium属の拡散過程をモデルによって明らかにする試みも行う。また平成25年度には新たに西部南太平洋での観測を行い、DNA, RNAサンプルを得たので、本課題の目的の一つである、nifH遺伝子をターゲットにしたディープシーケンスによる窒素固定生物の多様度の分布の解析も行う予定である。
|