2014 Fiscal Year Annual Research Report
窒素固定ホットスポットにおける生物多様性とその要因
Project/Area Number |
13J07341
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塩崎 拓平 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 島効果 / 窒素固定 / Trichodesmium |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究により、昨年度発見した窒素固定による島効果が黒潮でも起こっていること、またこの現象が北太平洋の窒素収支にも影響を与えている可能性を明らかにした。シアノバクテリアのTrichodesmium属は窒素固定による島効果の鍵となる窒素固定生物と考えられており、また同時に黒潮における主要な窒素固定生物であることが明らかとなっている。黒潮はTrichodesmium属の現存量が周辺海域に比べて顕著に多くなることが古くから知られていたが、その要因はわかっていなかった。本研究による5回の観測航海によって、黒潮は他の周辺海域と比べて窒素固定の制限要素となる鉄やリンの濃度が高いわけではないことが示された。一方、島周辺の集中観測ではTrichodesmium属のブルームを観測し、同時に観測した流れ場と栄養塩環境からそのブルームは島近傍から外洋に向かって流れていたことが示唆された。琉球列島は珊瑚礁に囲まれた島が多く、過去の他の海域の研究では礁内においてTrichodesmium属がブルームを形成しやすいことが明らかとなっている。本研究による数値シミュレーションの結果、島から放出されたTrichodesmium属は概ね黒潮に乗って流れていくことが示された。これらの結果から、黒潮においてTrichodesmium属の現存量が増加するのは、黒潮が周辺海域よりも栄養塩環境がよいからではなく、島付近で増殖したTrichodesmium属が黒潮に供給されているためであることが示唆された。我々の過去の研究により黒潮の窒素固定は北太平洋の窒素収支に影響を与えていることが明らかとなっている。本研究は島周辺で起こる一見ローカルな現象が大規模スケールの物質循環に影響を与えている可能性を示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究計画の当初、窒素固定ホットスポット(島)が周辺海域の生態系に影響を及ぼしているというところまでは予測していた。しかし、本年度に発見したように島周辺の現象(島効果)が北太平洋の物質循環にまで影響を及ぼしているというスケールの違いまでは予測していなかった。このような視点はこれまでの研究にないものであり、本研究により物質循環研究において新たな視座が与えられたと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度はnifH遺伝子(窒素固定を担うニトロゲナーゼをコードする遺伝子)の次世代シーケンス解析法を学ぶためにデンマーク、コペンハーゲン大学のLasse Riemann研究室に1月から3月までの2ヶ月間滞在した。当該研究室は世界で初めてnifH遺伝子の次世代シーケンス解析法を発表した研究室であり、分析からデータ解析のノウハウが蓄積されている。ここでは昨年度参加した白鳳丸KH-13-7航海及び2011年に参加した白鳳丸KH-11-10航海において採取したDNA及びRNAサンプルの分析を行った。両航海はそれぞれ南太平洋亜熱帯域の西部(KH-13-7)と東部(KH-11-10)を観測しており、KH-13-7航海では窒素固定による島効果と見られる基礎生産の上昇が見られた一方、KH-11-10航海では周辺に島はなく、島効果は観測されなかった。そのためこれらのサンプルの分析により、島効果のある海域とそうでない海域の窒素固定生物群集の違いを明らかにできると考える。今後はこのデータの解析と論文執筆を進める。
|
Research Products
(9 results)
-
-
-
-
-
-
[Presentation] 北太平洋の新生産における硝化の影響とアンモニア酸化細菌・古細菌の動態2015
Author(s)
塩崎拓平, 伊知地稔, 磯部一夫, 橋濱史典, 中村賢一, 江濱誠, 林崎健一, 高橋一生, 浜崎恒二, 古谷研
Organizer
日本海洋学会春季大会
Place of Presentation
東京都, 東京海洋大学
Year and Date
2015-03-21 – 2015-03-25
-
-
-