2014 Fiscal Year Annual Research Report
無水鉱物中の微量水素位置の特定:マントルレオロジーへの応用
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13J07374
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
櫻井 萌 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 無水鉱物 / FT-IR / 斜方輝石 / カンラン石 / 高圧実験 / 第一原理計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、上部マントル鉱物中の水素挙動の解明に向け、理論計算および高圧その場IR実験を用いて研究を行う。そこで、本研究では平成26年度、以下の2点について研究を行った。 1.第一原理計算による斜方輝石中の水素位置の決定:密度汎関数理論に基づいた第一原理電子状態計算から得られた結果と、高圧実験により得られた結果を比較・検討することで、斜方輝石中の水素位置の決定を行った。まず、置換反応により斜方輝石中に水素が固溶した構造を仮定し、計算を行いOH伸縮振動の波数、強度比を求めた。今回仮定した元素置換は以下に示すものである。(a)Si→4H (b)Mg→2H (c)Si→Al+H (d)2Mg→Al+H (e) Si→4HかつSi→Al+H,実験結果と計算結果の比較により、斜方輝石がAlを固溶しないとき、主要な含水メカニズムは(a) と(b)であるのに対し、斜方輝石がAlを固溶するときは主要な含水メカニズムが(c) と(d)に変化することが明らかになった。本研究から得られた結果は、Alの固溶と含水量の増加には含水メカニズムの変化が生じていることを示すものである。 2.高圧その場IR実験の手法の確立:無水鉱物中の水素位置に関する研究は、従来常圧回収試料から得られたIRスペクトルなどのデータと計算結果を比較し、位置を決定しており、高圧条件下における無水鉱物中の水素位置の変化に言及した例は非常に限られている。そこで、水を含んだ無水鉱物のIRその場観察実験を行い、その手法を確立し、圧力変化を観察することを試みた。実験には高圧発生装置としてダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた。出発物質には合成した含水フォルステライト(以下Fo)単結晶を用いた。試料は加圧測定中には透明で破損することなく、十分に鉱物中のOH基由来のバンドを観測することが可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は昨年度に行った斜方輝石とカンラン石のOH分配実験について、地球惑星科学の国際学術雑誌のEPSL誌に論文を発表した。本論文では、高温高圧実験から斜方輝石-カンラン石間では斜方輝石中のAl濃度の増加に伴い、指数関数的に斜方輝石に水が入りやすくなることが分かった。また、このAl濃度が分配係数に与える効果は、高圧条件下ほど増大することが分かった。最上部マントルでは深くなるほど斜方輝石はガーネットにAlを取られ、斜方輝石中のAl濃度は低下していく。この2つの効果はそれぞれ、カンラン石と共存する斜方輝石の含水量を下げる効果と増加させる効果として働くため、両者の効果は拮抗し、斜方輝石-カンラン石間の水の分配係数を一定値に保つことが予想される。そして斜方輝石がAlをほとんど掃出し終わった深さで、斜方輝石の含水能力が急激に低下し、吐き出した水をカンラン石が保有し、カンラン石の急激な粘性低下が引き起こされる。この急激な粘性の低下が、リソスフェア-アセノスフェア境界を説明しうることが明らかになった。 さらに、斜方輝石中のOH置換の仕組みを第一原理計算とFT-IRスペクトルを比較して推定し、専門誌J. Computer Chemistryにその成果の一部を公表し、その本論文をEPSL誌に投稿準備中である。DC1計画書においては3年時に予定していた斜方輝石中に含まれる水素位置の特定が当年度に達成され、本論分の投稿・受理によりDC1計画書に書いた当初計画のすべてを成就したことになる。斜方輝石中のOH置換の仕組みの研究成果の発表に対しては、鉱物科学会において第29号日本鉱物科学会ポスター研究発表最優秀賞を受賞した。 研究は当初計画をはるかに上回るペースで順調に進んでおり、今後上部マントル鉱物に含まれるOH成分の分配挙動とそれを支配する結晶化学原理について統一的な説明ができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は斜方輝石中のOH置換の仕組みを論文にまとめ、投稿予定である。本論文では、密度汎関数理論に基づいた第一原理電子状態計算から得られた結果と、高圧実験により得られた結果を比較・検討することで、斜方輝石中の水素位置の決定を行った。今回仮定した元素置換は以下に示すものである。(a)Si→4H (b)Mg→2H (c)Si→Al+H (d)2Mg→Al+H (e) Si→4HかつSi→Al+H 斜方輝石がAlを固溶するときは主要な含水メカニズムが(c) と(d)に変化することが明らかになった。斜方輝石はAlを固溶することで含水量が急激に増加することが知られており、本研究から得られた結果は、Alの固溶と含水量の増加には含水メカニズムの変化が生じていることを示すものである。 さらに、鉱物に含まれるOH置換の状態を高圧その場状態で観察するため、単結晶ダイヤモンドアンビルを用いたFT-IR測定の技術開発を行う。無水鉱物中のOH基の高圧その場観察は世界初の試みであり成功すればマントル物質のレオロジー解明における画期的成果となる。昨年度にランダムな方位のカンラン石Foに含まれるOH基のスペクトル位置の圧力変化が観測できたので、今後は方位を定めたFoや輝石についても測定を試みる。更に第一原理計算から得られたスペクトル位置の圧力変化について検討する。今後圧力をかけたときに水素位置がどのように変化し、波数が変化するかを計算から求め、今回得られたデータと比較することで水素位置の詳細決定、および水素配置の変化が物性に与える影響を見積もり、物性実験データを、結晶化学原理により体系化し、水素位置からさまざまな物性変化を見積もるというように面の情報へと変換することを目標とし研究を進めていく予定である。
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Research Products
(7 results)