2013 Fiscal Year Annual Research Report
非局所量子もつれ状態の生成に向けたグラフェンにおけるクーパー対スプリッターの実現
Project/Area Number |
13J07387
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
島崎 佑也 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | グラフェン / 非局所輸送 / バレー自由度 |
Research Abstract |
グラフェンにおけるクーパー対分離を行うために、当初は鏡面アンドレーエフ反射を用いることを予定していた。初年度の課題はグラフェン中の不純物によるドーピングの不均一性を超伝導ギャップのlmeVのオーダーよりも十分に小さい高移動度な超伝導接合デバイスを実現することであったが、h-BN上の常伝導接合デバイスにおいて電気伝導度の温度依存性から見積もられた電荷中性点の不均一性は現段階で10meV程度であり、鏡面アンドレーエフ反射の観測に必要な条件を満たすことができていない。そこでクーパー対を分離する方法としてバレーホール効果を用いる方法を新たに提案した。グラフェンにおいては運動量空間で2つのバンドの占有の自由度(バレー自由度)があり、反転対称性が破れた状態では電流を流した際に異なるバレーの電子がそれぞれ逆方向に曲がるバレーホール効果が予想されている。超伝導体からグラフェンにクーパー対が進入した際には、クーパー対の2電子はそれぞれ異なるバレーを占有すると考えられ、従ってバレーホール効果を用いることでクーパー対を分離できると考えられる。 そこで当初の予定を変更して初年度はバレーホール効果の実証を目標として研究を行った。h-BNを絶縁層として用いた高移動度な二層グラフェンに面直電場を印加することで反転対称性を破り、バレーホール効果を誘起する。検出にはバレーホール効果とその逆効果を組み合わせることでバレー流を介して生じると予想される非局所抵抗を測定した。実験においては面直電場の印加に伴って非局所抵抗が出現する様子が実際に観測され、現在のところ最も可能性のある起源としてはバレーホール効果と考えられる。しかしながらバレーとの関連性を直接的に示すには至っていないため、非局所抵抗の緩和機構についてさらに研究を行うことでその起源を明らかにしたい。非局所抵抗の起源がバレーホール効果であることが実証できれば、バレー流の電気的生成、電気的検出を初めて実証したこととなり、クーパー対分離への利用にとどまらず、バレー自由度を用いたバレートロニクスの基礎と成り得る。得られた結果についてはAPS March Meeting 2014および日本物理学会 第69回年次大会において発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画に困難があることが判明し、計画を変更することとなってしまったが、研究目的であるクーパー対の分離を実現する方法として新たにバレーホール効果を用いる手法を提案した。当該年度の新たな目標として設定したバレーホール効果の実証については非局所抵抗の測定を考案し、実際に非局所抵抗を検出することに成功し、バレーホール効果の可能性が期待される。さらなる検証が必要であるが、概ね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初はクーパー対を分離する手法として鏡面アンドレーエフ反射を利用する計画であったが、前述の様にバレーホール効果を用いる手法へと計画を変更したため、平成26年度の計画を変更し、これまでに観測された非局所抵抗の緩和メカニズムについて研究を進めることでバレーとの関連性を示し、バレーホール効果を実証したい。さらに最終年度のクーパー対分離の実現へ向けてデュアルゲート構造の二層グラフェンと超伝導体との接合デバイスの作成を行いたい。
|
Research Products
(2 results)