2014 Fiscal Year Annual Research Report
東方教父における神化-ニュッサのグレゴリオスにおける人間理解をめぐって-
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13J07951
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
武富 香織 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 信仰と理性 / ギリシャとヘブライズム / ピュシス / ハヤトロギア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、四世紀のギリシャ教父ニュッサのグレゴリオスのテキストを中心に、知的・修道的活動の中で成熟していった教父の神化思想を通して、西欧近現代以降に主流をなすようになった人格把握に対して、新たな人間観と一視点を提示することを目的とするものである。昨年からのテーマを引き継ぎ、グレゴリオスにおける神化思想の内的構造を検証する基礎的な研究を行った。 本年度は、グレゴリオスの擁したキリスト教的人間観がいかに哲学的思索との絡み合いの内に構築されたものであるのかを、古典ギリシャ思想との比較検討を通して考察した。キリスト教において人間は神の像として造られたと考えられているが、そうした神の像への成長・変遷過程を説くにあたって、グレゴリオスは単に聖書の記述やキリスト教内部の伝承に基づいて論じるのみならず、ギリシャ由来の諸概念を、それらの概念が伝統的に意味してきた内実を深く理解し吸収したうえ積極的に使用している。 そうした彼の哲学的思索の一端を明らかにするために考察の軸とされたのは、ピュシス概念である。ギリシャの先人たち、「哲学」にとっていわば関心の中核に据えられていたとも言えるこの概念を、初期のキリスト教会の父であるグレゴリオスは、自らの宗教・信仰の内へと批判的に受容している。本研究では、古代ギリシャ世界におけるピュシスの意味内容を概観したうえで、それがキリスト教の源泉たるヘブライに由来する無からの創造の観念と衝突する面を持つ点に着目した。グレゴリオスはピュシスのギリシャ的用法を基本的な意味において押さえつつ、造られた存在者である人間のピュシスとその超出性についての洞察を示すことで、この概念を人間が神へ向かってゆく契機を語る際のひとつの人間的根拠として用いている。 尚、上記の研究結果から得られた成果は、学会での口頭発表、学会誌への投稿・掲載というかたちで実現された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先に挙げた基礎研究を基にまとめられた論文を、①学会や研究会等での口頭発表、②学会誌への投稿というかたちで達成することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究のテーマである「神化」に関わりがありそうに思われる他の概念にも着目し、教父における哲学受容、および信仰と理性の関係について理解を深めてゆくことが求められる。
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Research Products
(6 results)