2014 Fiscal Year Annual Research Report
近世スコラ学との比較に基づくスピノザ形而上学の総合的研究
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13J08122
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 一紀 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | スピノザ / スアレス / スコラ哲学 / ドゥルーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は以下の三点に区分される。(1)スアレスの形而上学体系に関する分析、ならびにそれ以降の近世スコラ学の研究、(2)そこで得られた知見を補助線とする、スピノザ哲学における古典的な問題に対する解釈作業、(3)とりわけ前年度に集中的に行われたスコラ哲学における存在の一義性/アナロギアテーゼの研究の副産物としての、ジル・ドゥルーズにおける存在の一義性テーゼの再検討。 (1)スアレス『形而上学討論集』における超越範疇(transcendentia)論の独自性に関する研究を継続して行い、その成果を論文としてまとめ、さらにそこから得られた成果をスアレスの体系全体に置き直すことで、哲学史における彼の位置づけ、ならびに哲学史を記述する上での一つの有力な視角に対する問い直しの作業を行った。超越範疇が、存在-神-論の歴史にとって決定的な鍵とされてきた(自己)原因概念と同じ位置価を有していることが明らかにされ、存在-神-論の内実そのものを再検討する視座を得るに至った。 (2)超越範疇という概念を拒否し、新たに共通概念というタームを導入する点にスピノザ哲学の大きな賭金を見てとることができる。その批判の対象となっているところの超越範疇の実質に着目することから解釈上の古典的な係争問題に対する解を与える作業を進めた。 (3)前年度に行われた、スコラ学における存在の一義性/アナロギアテーゼの再検討を踏まえて、ドゥルーズの独自性が実際のところどの点について認められるのかということに関して報告を行った。しばしば曖昧に用いられがちなこのテーゼを、前年度の成果を活かしつつ整理した上で、ドゥルーズにおける存在の一義性を肯定するためには、通常の存在論においては多義的に用いられる非-存在の一義性こそがその条件となることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
近世スコラ哲学に関しては、とりわけ超越範疇論という観点からスアレスの独自性に着目することで一定の視座を得るに至っており、これをもとにその後の近世スコラ学に対する分析が進められている。さらに、この作業結果を補助線としたスピノザ研究も並行して進行している。これらの点については、採用二年目の時点において、当初の予定通り計画が進展していると言える。 さらに、スアレスのテクストの精読から、存在-神-論という理論モデルそれ自体に対する問い直しの契機がいわば副産物として生じた。これは、とりわけ20世紀後半のフランス哲学を中心に超出の対象とされた存在-神-論の実質そのものを再規定するという意味でそれ自体大きな成果であると考えられる。この点と、スコラ学における存在の一義性/アナロギアの再検討からドゥルーズにおける存在の一義性テーゼの独自性の考察、これら二点については、現在のスピノザ研究が20世紀後半のフランスの哲学者・哲学史家に負うところが極めて大きいことを主な理由として、本スピノザ研究にフィードバックしていくことが期待される。以上から、本研究は当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、以下の二点に集中して進められる予定である。 まず、スアレス超越範疇論がネーデルランドの近世スコラ学者にも引き継がれていることを確認することでスピノザ形而上学の読解の一助としつつ、さらにカロフを代表とするグノストロギアの系譜、ヴォルフ・バウムガルテンらドイツ講壇哲学にどのように流れ込んでいるのかを調べることで、超越範疇(transcendentia)から超越論的(transzendental)哲学に至る発生のプロセス、その系譜学を構成するための作業を行う。 そして、すでに着手しつつある、近世スコラ学をその補助線とすることによる、『エチカ』を読解する上での古典的な係争問題に対する解釈案を提示しつつ、スピノザ研究を纏めあげる。その際には、すでに解釈仮説として切り離すことのできないものとなっている存在-神-論というモデルや存在の一義性テーゼに対する本研究の成果が動員される予定である。
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