2014 Fiscal Year Annual Research Report
新たな視点と調査法に基づく日本語諸方言アスペクトの研究
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13J08418
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Research Institution | National Institute for Japanese Language and Linguistics |
Principal Investigator |
津田 智史 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 時空間変異研究系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アスペクト / ヨル形 / トル形 / 基本的意味 / 事態の存在 / 言語的発想法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度実施した調査では、アスペクト的な観点以外についても調査項目として含めた。その上で、使用される形式を確認し、それらの実際のふるまいを基に基本的な意味を求めることを行った。また、西日本諸方言で広く使用されるトル形について、各地の用法・用例を基に基本的な意味を見出し、一つの基本的な意味から各地方言の用法を解釈できることを明らかにした。 1.各地方言におけるアスペクト表現形式の把握とその意味記述:高知県方言調査において、アスペクトなどの時間的・局面的な条件を共通にしながら、別の視点・観点の条件制約も設けて調査を行った。その結果、ヨル形は事態の存在そのものに、トル形は事態が起こった点またその影響(の存在)に焦点があるときに使用されることがわかった。必ずしもアスペクト的な局面性や時間的な制約で形式が選ばれているわけではないことが窺えた。 2.アスペクト形式における意味の共通性:西日本諸方言に広くみられるトル形について、アスペクト、待遇、ムードなどの意味で用いられる場合も含め、共通する基本的な意味を求めた。同時に、トル形がさまざまな意味・用法で使用される要因ついて考察した。そこから、トル形を「動詞の表す事態が起こり,何らかの形でそこに存在することを主体的に描写する」という基本的な意味を持つ形式として示した。 3.アスペクト体系形成の地域差:一つのケーススタディーとして、東西方言境界におけるアスペクト的な用法の差異と体系の地理的な変化をみることを行った。そこから、文法体系は少しずつ差異を持ちながら地理的に連続しており、それをみるためにはさまざまなアスペクト的意味を表す形式を確認する必要があることが窺えた。また、そこに現れる形式や体系の差をもたらすものの背景に、言語的な発想法の地域差が考えられる可能性を示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
西日本諸方言におけるヨル形、トル形の基本的意味について調査結果の論文化等、考察をまとめる作業が随時進行している。調査については当初の予定を消化しきれなかったが、前年度までの調査結果や先行研究の方言地図や記述を総合的にまとめ東海~信越地方のアスペクト体系についてその地理的連続性を明らかにできた。また、宮城県気仙沼方言における調査を実施するなど、東日本においても研究の裾野を拡げていくことができた。 全体としては日本語の方言アスペクトの全容解明に向けて、おおむね順調に進展しているといえよう。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、前年度までの調査の結果を随時まとめて論文化するとともに、補充的な調査を計画している。具体的には、西日本諸方言のヨル形、トル形の打消形のふるまいを明らかにすることで、両形式の基本的な意味の補強を行いたい。さらに、大阪府を中心にみられる待遇的な(卑語の)ヨル形についてもそのふるまいを調査・確認したい。これらの調査を9月ごろまでに実施し、その後、日本語の方言アスペクトの全容解明に向けて、特に西日本諸方言のアスペクト形式のふるまいとその基本的な意味に焦点をあててまとめていく。年度末には、これらの成果をまとめた報告書を作成する予定である。 当初計画に含んでいた琉球方言への形式の連続性については十分に調査を行えたとは言い難いが、その点については年度末の報告書作成、本研究の総括を見据え、現段階では先行研究の記述に頼りながらまとめていくこととする。
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Research Products
(2 results)