2014 Fiscal Year Annual Research Report
十脚甲殻類の浸透圧調節に関与する未知タンパク質の探索と機能解析
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13J08421
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
進士 淳平 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-26 – 2016-03-31
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Keywords | 甲殻類 / 浸透圧調節 / アミノ酸 / 代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度に行ったタンパクのスクリーニングの結果、筋肉において環境塩分の低下に伴い解糖系の酵素であるエノラーゼの含有量が著しく減少することが明らかとなった。解糖系は、細胞呼吸により炭水化物からエネルギーを作るためのメカニズムである。このことから、低塩分下では炭水化物をエネルギー利用するための代謝経路が強く抑制され、エネルギー源が別のものにシフトしたと考えられる。 この低塩分下で抑制される代謝経路の代わりに活性化する代謝経路として、申請者はアミノ酸代謝に着目した。十脚甲殻類では、呼吸・排泄速度の比較に基づき、低塩分下においてアミノ酸などの窒素化合物を主要なエネルギー源として用いることが示唆されている。そこで本研究では、次にアミノ酸をエネルギー利用するための代謝経路の体系的な解析に取り組むこととした。 研究開始2年目にあたる平成26年度は、上述の研究背景からアミノ酸代謝およびクエン酸回路関連酵素遺伝子の塩基配列の解明と発現解析を重点的に行った。現在までに、クエン酸シンターゼ、グリシンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼおよびメチルマロニルCoAムターゼの部分配列および全長配列を決定済みである。エネルギー代謝に関する酵素はこれまで配列情報がほとんど明らかにされておらず、これらの酵素はほとんどが甲殻亜門または十脚目で初の報告となる。real-time PCRによって分析したところ、これらアミノ酸のエネルギー利用に関連する遺伝子は低塩分下において発現量が上昇していた。これらの結果は、低塩分下においてエネルギー源が炭水化物からアミノ酸にシフトするという初年度に得られた仮説を支持していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、本研究では、細胞レベルの浸透圧調節に関与する未知タンパクのスクリーニングを行い、その構造と機能を明らかにする計画であった。初年度1年間を費やして行われたスクリーニングで得られたのは、呼吸代謝に関与する既知のタンパクであった。そこで本研究では、そのタンパクの特性に基づき、細胞の浸透圧調節とエネルギー産生の関連に着目して研究を進めることとした。 生物のエネルギー産生に関わる呼吸代謝の酵素は、古くからその存在と役割が知られていながら、意外にもほとんどの生物でその遺伝子配列が明らかにされていなかった。本研究では、前年度に得られた仮説に従い、遊離アミノ酸をエネルギー利用する代謝酵素10種類以上を対象に、縮重プライマーを使用したcDNAクローニングによる遺伝子配列の解明を試みた。縮重プライマーを使用するcDNAクローニングでは、既存の配列情報をもとに未知配列の予測を行う性質上、既知の配列情報の蓄積が実験の難度を決めることとなる。本研究の場合のように、他の生物における配列情報の蓄積が極端に少ない場合、本来はこうした方法を用いることは好ましくない。しかし、本研究で用いた実験動物ではゲノムデータベースをはじめとする有効な遺伝子情報データベースがほぼ存在しないため、この方法以外の選択肢が存在しなかった。実験は困難を極めたものの、本年度1年間の研究で、当初の候補遺伝子の約半数の配列情報を明らかにすることができた。これらの酵素はほとんどが甲殻亜門または十脚目で初の報告となる。 以上のように、本研究は当初の予想とは若干異なった道筋をたどったものの、着実に前進している。よって、私は研究の進捗状況をおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまでの研究で、甲殻類の低塩分下の細胞レベルの浸透圧調節にアミノ酸代謝に関わる酵素が関与していることが示唆された。こうした酵素は、浸透圧を構成する物質としてのアミノ酸の含有量を調節するため、低塩分下で不要なアミノ酸をエネルギー利用し、細胞浸透圧を下げる働きをすると考えられる。 そこで、最終年度にあたる3年目は、この仮説をより確かなものとするため、まずHPLCと市販キットを用いて代謝産物の網羅的な測定を行う予定である。これにより実際に組織中のアミノ酸動態が各アミノ酸代謝酵素の発現動態と一致することが明らかになれば、低塩分順応過程でアミノ酸量を調節するために特定のアミノ酸代謝経路が機能した強い証拠となる。 次に、ここまでの実験で低塩分順応に機能することが示唆されたアミノ酸代謝酵素の遺伝子ノックダウン実験を行う。各アミノ酸代謝酵素の部分配列に相補的な二本鎖RNAを作成し、実験動物に投与する。これにより標的遺伝子の発現を人為的に抑制し、その上で環境塩分を低下させる。もし標的遺伝子が低塩分順応に機能するのであれば、この操作により実験動物が低塩分に順応できず死亡するか、抑制されたアミノ酸代謝経路を代替する他のアミノ酸代謝経路が活性化すると予想される。これにより、各アミノ酸代謝酵素が担う代謝経路が低塩分順応に機能するか明らかにする。 以上の実験により、環境塩分の変化に順応するためのエネルギー代謝経路とそれを利用した浸透圧調節機構が明らかにされることが期待される。
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Research Products
(3 results)