2013 Fiscal Year Annual Research Report
群体性ボルボックス目テトラバエナを用いた多細胞化初期段階の進化生物学的解析
Project/Area Number |
13J09234
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新垣 陽子 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 多細胞化 / 群体性ボルボックス目 / テトラバエナ / 細胞構造 / 原形質の架橋 / シアワセモ |
Research Abstract |
緑藻の「群体性ボルボックス目藻類」は、単細胞のクラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)を近縁とし、最も細胞数が多く複雑化したボルボックス(Volovox carteri)にいたるまで、細胞数や分化レベルで進化的中間段階の種が現存する多細胞化のモデル生物群である。申請者は、「群体性ボルボックス目藻類」のうち、最も初期に分岐した4細胞のテトラバエナ(学名 : Tetrabaena socialis)に注目し、多細胞化初期で起きた進化の解明を目的に研究を行っている。テトラバエナは本群で、最も細胞数が少なく、系統的にも最も基部に位置するため、単細胞から多細胞への転換期に起きた進化を解明するのに最適の生物であるが、現在まで注目されなかったために詳細な研究が少なかった。申請者は、昨年度までにテトラバエナの細胞ステージを統一させる同調培養系を確立し、テトラバエナを構成する4個の細胞が単細胞と異なる細胞構造を持つことを確認した。また、細胞分裂時の形態形成過程で、娘細胞どうしが原形質の架橋で接続し、多細胞体として正しいかたちを作ることを透過型電子顕微鏡(TEM)により確認した。これら2つの特徴は、ボルボックスなどの細胞数の多い種と共通である。本年度、さらにTEM観察を続けた結果、テトラバエナの鞭毛の根元の構造が、単細胞のクラミドモナスと異なり、ボルボックスなどと同様に分離していることが明らかとなった。このような形態的進化が起きることで、細胞構造が変化し、複数の細胞がひとつの生物の部分として統合されたと考えられる。よって、テトラバエナは本群における最も細胞数の少ない多細胞生物だといえ、内容をまとめて論文を執筆し、2013年12月に出版された(Arakaki et al. 2013. PLOS ONE)。また、その内容のプレスリリースを実施し、テトラバエナにシアワセモという和名をつけた。加えて、ボルボックス目における多細胞化を分子生物学的にも解明することを目的に、テトラバエナのゲノム解読のためのDNA抽出・精製を実施した。現在、解読・アセンブル中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
群体性ボルボックス目藻類を用いて多細胞化の分子メカニズムを解明するため、本群において最も細胞数の少ないテトラバエナのゲノムを解読中であり、多細胞化関連遺伝子を探索中であるが、発現解析や局在解析等まではまだ進めていないため、やや遅れていると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者は、多細胞化の分子メカニズムの解明を目指して、多細胞化のモデル生物群である緑藻ボルボックス目藻類を用いている。現在、その中でも最も細胞数の少ないテトラバエナのゲノムを解読中であり、すでにゲノム情報の公開されている単細胞のクラミドモナスや多細胞のボルボックスと比較解析することで、多細胞化に重要であると考えられる遺伝子を探索している。今後も引き続き遺伝子探索を行い、その後発現解析・局在解析・系統解析などを通して、ボルボックス目藻類における多細胞化の分子メカニズムに迫っていく方針である。
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Research Products
(3 results)