2014 Fiscal Year Annual Research Report
静的および動的な超高精度多成分第一原理手法の開発と電子・陽電子ダイナミクスの研究
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13J10009
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
小山田 隆行 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 陽電子化合物 / 多成分系分子軌道法 / 電子-陽電子相関 / 電子-陽電子対消滅率 / 電子-陽電子対相対密度関数 / 電子-陽電子接触密度関数 / 陽電子親和力 / 顕に相関したガウス型関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年度は「顕に相関したガウス型関数を用いた高精度第一原理計算プログラム」を開発した。1電子基底関数(GTF)のみを用いる従来の配置間相互作用法と比べ、本研究で開発した2電子基底関数(GTG)を用いる計算は、相関の高精度定量評価において効率の良いことを確かめた。またGTG軌道指数のみならずGTF軌道指数も最適化することで、ビリアル定理を高精度に満たし、厳密解と比較して良い結果が得られることを見出した。 また、実験的観測は困難だが、電子-陽電子対消滅機構の解明に重要な各種の密度関数の評価・解析を実現した。まず「電子-陽電子対相対密度関数」の評価を行った。得られた相対密度関数を用いて電子-陽電子間の平均距離や、それを一般化した電子-陽電子間距離のn次モーメントの算定を行った。続いて、分子中で対消滅の起こりやすい場所を特定するため「電子-陽電子接触密度関数」の評価ルーチンを開発し、開発中の多成分系分子軌道法プログラムに実装した。この接触密度関数は、物質の構造欠陥などの非破壊検査や、陽電子断層撮影法などの医療診断技術の測定精度を高精度化させる上で有益な基盤情報を与えると期待され、陽電子科学の進展において大きな意義を持つ。 そして電子-陽電子対消滅率を、(1)相対密度関数の原点の値を用いる方法、(2)接触密度関数を空間全体で積分する方法、(3)電子-陽電子重なり積分を用いる方法でそれぞれ評価した。文献値の見つかった陽電子化合物については、いずれも本研究で算定した対消滅率と良く一致している。さらに軌道毎の対消滅率の解析方法を確立し、多くの場合、価電子と陽電子の衝突の寄与が最も大きいことを解明した。対消滅率は平均場(HF)近似では実験値と比べ過小評価されるが、電子-陽電子相関を考慮した高精度計算により対消滅率を評価し、HFと比べ大幅に改善されることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2年度は研究目的にある「顕に相関したガウス型関数を用いた高精度第一原理プログラム」を開発した。GTG軌道指数のみならずGTF軌道指数も最適化することで、ビリアル定理を高精度に満たし、厳密解と比較して良い結果が得られた。従って、本研究で開発した第一原理プログラムは、高精度で信頼性が高いと言える。 研究計画にある「電子-陽電子対相対密度関数の評価」と、それを用いた電子-陽電子間距離のn次モーメントの算定も実現した。対消滅率の評価では、文献値との比較のみならず、複数の方法で対消滅率を算定して値が一致することを確認し、計算結果の信頼性について入念な検証を行っている。そして対消滅率を軌道毎に算定し、多くの陽電子化合物では、価電子と陽電子の対消滅が最も顕著であることを見出した。平均場近似では対消滅率を過小評価するが、電子-陽電子相関を考慮することで、対消滅率を大幅に改善することにも成功し、対消滅機構における電子-陽電子相関の役割の重要性を確認した。これらは研究目的にある電子-陽電子対消滅機構の理論的解明に繋がる有益な基盤情報であり、2年度の研究計画はほぼ達成された。 さらに当初の研究計画以上の進展として、「電子-陽電子接触密度関数」の評価ルーチンを開発し、開発中の多成分系分子軌道法プログラムにより、任意の対称性の分子について、対消滅の起こりやすい場所を特定する解析方法を確立した。この他にも「FH分子への陽電子束縛の研究」を行い、電子-陽電子相関と分子振動効果の双方を考慮すれば、極性の小さなFH分子でも、弱いが有意な陽電子束縛が可能であることを解明する等、当初の研究計画以上の進展が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、顕に相関したガウス型関数(GTG)を用いた高精度第一原理プログラムを開発したが、問題は展開項数を増やした場合のGTG軌道指数の決定方法と、より大きな分子系に適用する際に生じる多粒子積分の扱いである。GTG軌道指数の決定には、(1)本研究グループで培ってきた完全変分型分子軌道法のエネルギー勾配法の技術を応用して変分的に改良する方法と、(2)乱数を用いた統計的変分法により最適値を探索する方法が有望である。大きな分子系での大規模GTG計算では、解離フラグメントに対する小規模なGTG計算で最適化し得られたGTG軌道指数を出発点として、徐々に大規模計算へとGTG軌道指数を改良する方法を試みる。 また対消滅率を軌道毎に評価した本研究の解析結果から、多くの陽電子化合物では、価電子と陽電子の衝突が対消滅率に最も大きな寄与をしていることが明らかになった。陽電子束縛の強さの指標である陽電子親和力は、親分子と陽電子化合物のエネルギー差として定義されるが、陽電子化合物でも内殻電子の状態は親分子のそれとほとんど変わらず、陽電子親和力についても価電子と陽電子の相互作用が重要な寄与をしていると考えられる。従って、価電子と陽電子の相関のみを顕に扱う方法も大きな分子系で生じる多粒子積分の問題を克服する方策として有望であり、今後の研究の推進方策として検討中である。
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