2013 Fiscal Year Annual Research Report
滲出液RT-PCR法による褥瘡感染バイオマーカーの確立
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13J10062
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
浅田 真弓 東京大学, 大学院医学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | バイオマーカー / クリティカルコロナイゼーション / DNAマイクロアレイ / 滲出液RT-PCR法 / 感染 / 定着 / 宿主病原体相互作用 / 創傷 |
Research Abstract |
近年問題となっている、炎症徴候を伴わずに治癒遅延ずるクリティカルコロナイゼーション及び感染創傷の客観的同定指標を得るため、報告者が確立した「滲出液RT-PCR法 : 滲出液に含まれる細胞を対象としたRT-PCR法」の臨床応用を目指した基礎研究並びに臨床研究を行った。クリティカルコロナイゼーションとは特有の臨床徴候を示さず、「最適なケアにも関わらず2週間以上治癒傾向が認められない」創傷とされる。本研究において下記のような結果を得、早期の介入を必要とする創傷のみを検出できる、臨床的に有用なバイオマーカーを同定することができた。 1. クリティカル=ロナイゼーション動物モデルの確立を試みた結果、報告者が確立した動物モデルの細菌負荷条件を調節することにより、定義通り炎症徴候を伴わない治癒遅延を示す妥当なモデルを確立し得た。これにより、慢性創傷の感染の概念である、infection continuum(汚染・定着・クリティカルコロナイゼ一ション・感染)にそれぞれ対応する一連の動物モデルが得られ、滲出液中細胞の網羅的遺伝子発現解析を行うことにより、クリティカルコロナイゼーション及び感染のみで高発現を示すマーカー候補遺伝子を絞り込むことが可能となった。 2. 対照群、定着群、クリティカルコロナイゼ一ション群、感染群の4群の動物モデルについて、滲出液中細胞群のポピュレーションを明らかにしたのち、フローサイトメトリーで細菌由来の細胞を除き、宿主の細胞のみをソーティングした : 各群サンプルの細胞ペレットからtotal RNAを抽出後、DNAマイクロアレイ(Whol Rat Genome Olig Microarray 4x44K v3, Agilent)を施行し、創傷滲出液中細胞の網羅的遺伝子発現データが得られた。 3. 得られたマイクロアレイデータから、クリティカルコロナイゼーション及び感染群のみで高発現する遺伝子を550同定し、感染群の対照群に対する発現比が高い順にソートしたマーカー候補遺伝子のリストを得た。臨床研究において、慢性創傷の滲出液が染み込んだガーゼからtotal RNAを抽出し、このリストの上位から順にreal-time RT-PCRで発現量を定量し、18S rRNAとHPRT1遺伝子の内部標準による補正を行ったΔCt法で群間比較した。 4. 臨床の創傷は1週間に1回、4週間連続して観察することにより、専門家による臨床的判断、創面スワプ(Levine法)による細菌数、創面積変化による定義から、臨床的転帰を決定し、明らかに分類可能な正常治癒群(n=4)、クリティカル=ロナイゼーション群(n=3)、感染群(n=4)についてマーカー候補遺伝子の発現量を比較した。マーカー候補遺伝子発現の有無のみで、正常治癒とそれ以外を区別する感度・特異度を算出した結果、共に100%を示す5つのマーカー遺伝子を得た(特許申請中)。本研究の成果は従来法では不可能な、臨床介入の必要な感染関連創傷のみの同定を実現するのみならず、クリティカルコロナイゼーション創傷の病態理解において重要な貢献をなすと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
滲出液を用いた非侵襲的な感染バイオマーカーの開発の為、滲出液中細胞の網羅的遺伝子発現解析を基盤として、動物実験から臨床研究と精力的に研究を行い、臨床的に求められているクリティカルコロナイゼーンヨン及び感染創傷のバイオマーカーを見出した研究成果は、本研究のみならず多方面への発展が期待される成果である。1年度目にして、バイオマーカーを同定する成果を挙げており、短期間に臨床応用の十分な可能性を示した。発見したバイオマーカーについては特許申請の諸手続きを進めているなど、今後の展開が強く期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、基礎研究では得られたマーカ一遺伝子の創傷感染現象におけるメカニズム研究が有用と考えられ、これによって病態生理の十分明らかになっていない、クリティカルコロナイゼーションを含めた創傷感染への理解や新たな治療法の発見をもたらす可能性がある。臨床研究では対象者数を増やした前向き研究などで、マーカーの予測妥当性の検証を行う研究がより意義深いマーカーとしての臨床応用を実現する上で有用と考える。今年度の研究で得られたバイオマーカーは、特許申請手続きを進めているところであり、その後簡易キットなどの開発を通じて、臨床応用を遂行していく予定である。
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Research Products
(5 results)