2013 Fiscal Year Annual Research Report
19~20世紀初頭にかけてのイギリス人の世界認識とイギリス海軍の関係について
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13J10178
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邊 公夫 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | プロテスント宣教師 / 近代日本の帝国支配 / 近代沖縄社会 / ベッテルハイム / E・R・ブル |
Research Abstract |
本研究は19世紀半ばに琉球王国に滞在した、イギリス人宣教医ベッテルハイムが、イギリス本国に与えた東アジアイメージを明らかにすることを目的としていた。ベッテルハイムは琉球海軍伝道会に、日記形式の報告書を提出していた。それは、従来の琉球王国イメージを覆す内容のものだった。また、琉球王国が中国の属国ではなく、日本の強い政治的影響下にあるとイギリスで初めて報告した。 ベッテルハイムの後世への影響はそれにとどまらなかった。1920年代にはいって、ベッテルハイムの琉球王国における事績は、沖縄社会で新たに顕彰の対象になった。その契機となったのは、アメリカ人メソジストの牧師、E・R・ブルによるベッテルハイム顕彰運動だった。ブルはベッテルハイムを沖縄宣教の先人と位置づけ、自身の宣教活動に役立てようとしたのである。さらに、沖縄の世俗社会においてもベッテルハイムが顕彰され、共同体の記憶に刻まれた。すなわち、日本の支配のもと近代化を推進しながら、日本の「文明性」を相対化し、沖縄の自律性を称揚するために、ベッテルハイムを「日本本土よりも早く西洋の先進的な医療技術を沖縄に伝えた恩人」として讃えたのである。ベッテルハイムの琉球王国での活動と挫折は、琉球王国が文明化を達成する契機であったと同時に、江戸幕府の鎖国政策の弊害の象徴であった。すなわち、当時の沖縄人は、ベッテルハイムの事例から、沖縄社会の自主的な文明化の可能性を主張し、現在の沖縄社会の停滞の責任を過去の日琉間の歴史的経緯に求めたのである。 この顕彰運動の中心人物だったブルは、沖縄と日本の関係を米国人宣教師として観察していた。彼は、太平洋戦争の沖縄戦にも関心を寄せ、戦後には琉球大学にブル文庫を創設している。彼の活動を分析することは、当時の欧米の宣教師の日本帝国イメージの一端を明らかにすることに他ならない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)当初の目的通り、ベッテルハイムの琉球王国での活動の実態を明らかにすることができた。 (2)琉球大学でブル文庫というベッテルハイム研究上貴重な史料群を発見できた。 (3)ベッテルハイムの琉球王国での活動が、近代沖縄社会の共同体の記憶に刻まれた過程を明らかにすることができ、極東における欧米人宣教師の活動が現地社会にもたらした影響のあり方について新たな視点を投げかけることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
変更点 : 本研究は、当初の研究計画から微修正を加える必要がある。それは、宣教師ベッテルハイムの事績の歴史的意義を考察した場合、琉球処分後の沖縄社会に彼の業績がどのように「記憶」されたのかを問い、ベッテルハイムの顕彰運動を推進したE・R・ブル牧師の思想を分析する必要があるからである。 対応策 : ブル牧師の、沖縄社会やベッテルハイム顕彰運動に関する言説を分析する。その前提として、当時のアメリカで興隆していたエキュメニズムがブルにどのような影響を与えていたかを明らかにする。扱う史料としては、ブル牧師が琉球大学に寄贈したブル文庫がある。ブル文庫には、ブルが収集した本や論文、新聞記事、彼が著した本などの希少な史料が含まれており、ブル牧師の思想を分析するうえで極めて重要な史料である。
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Research Products
(1 results)