2013 Fiscal Year Annual Research Report
マルティン・ハイデッガーの「自然」をめぐる思考に関する研究
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13J10282
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
丸山 文隆 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | カント / 超越論的対象 / 無 / メタ存在論 / ハイデッガー / 存在了解 / 根拠 |
Research Abstract |
本年度の前半(2013年4月~9月)は計画に則り、口頭発表「ハイデッガーのメタ存在論構想と『カント』書―無についてわれわれが語るときにわれわれが語ること―」の内容を準備した。ここにおいて明らかになったのは、『存在と時間』公刊直後のハイデッガーの主要関心事は〈「存在者が存在する」ということと「存在了解」とは、それぞれ他方に対してどのように先行的であるのか〉という難問をめぐるものだったということである。そしてこれに対するハイデッガーの回答は〈現存在は「存在者が存在すること」の根拠であるが、唯一の根拠ではないということ〉であり、「存在者の存在」の、現存在とは別の、「われわれには未知の根拠」があらねばならないということである。この根拠は彼のカント解釈において「超越論的対象=X」として名指され、さらに「無」と言い換えられている。この成果の意味は、報告者の研究計画にとっても大きなものであった。すなわち〈対象化するはたらき〉の問題点を指摘するのが1928年の「メタ存在論」構想であったが、いまや1929年の「無」の思想と1928年の「メタ存在論」との質的な差異が明らかになり、「メタ存在論」構想の不十分さと、これが「無」の思想へと変転していくことの必然性とが明らかになった。技術論による〈対象化するはたらき〉の拒否を適切に評価することのためには、〈対象化するはたらき〉それ自体がもつ問題点を指摘することのみでは十分ではないのであり、「無」の思想を導入することによってこの問題点はどの程度解決し、どの程度残り続けるのかということを詳細に明らかにする必要がある。本年度の後半(2013年10月~2014年3月)はそれゆえ、前年度(2012年度)までに報告者がなしてきた「メタ存在論」解釈を更に広い視点から再解釈しつつ、「無」の思想の射程を明確にすることに尽力した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画において課題としたのは(1)ハイデッガーのカント解釈の究明と、(2)ここでみられる〈対象化的思考〉へのハイデッガーの態度を後年(1940年代以降)の技術論と関連づけることであったが、このうち(1)を達成したが、(2)を達成することはできなかった。だが(1)を達成するなかでハイデッガーの「無」の思想の内実を明確にしえたことは、当初の見込みに比してかなり大きな成果であるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的に申請時と同様の計画に沿って研究を進める。 ただし、上述の新たな成果の重要性に鑑み、ハイデッガーの1930年代の思考の全体を性急に描き出すことを求めるのではなく、むしろ着実に1930年前後における彼の新たな思考の内実を分析することを心がけたい。 すなわち具体的には、「詩」への着目を分析するための最重要文献のひとつである1934/35年冬学期講義の議論構造からしても、哲学と世界観(あるいは気分)との関わりこそが重要な問題であるが、この問題が『存在と時間』以降、どのように考えられてきたのかということを(「無」の思想との連関を考慮しつつ)段階的な分析によって明らかにすることを目指す。
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Research Products
(4 results)