Research Abstract |
私の研究対象はパルサーと呼ばれる天体で, 強磁場を持ち高速で回転している中性子星と考えられている. 現在, 我々の銀河系内に2000以上観測されるパルサーは, その回転に起因する非常に正確なパルスを発する天体で, その周期の減速から回転エネルギーを何らかの形で放出していることがわかっている. 一方, パルサーの内でも大きな回転光度を持つパルサーは, その周りにパルサー星雲と呼ばれる天体を形成している. 観測的にパルサー星雲はその中心に存在するパルサーによって駆動されていることがわかっており, パルサーからはパルサー星雲の構成物質とされている相対論的磁化プラズマが吹いている. それが回転減速の原因と考えられており, そのプラズマの流れをパルサー風と呼ぶ. 私の研究目的はそのパルサー風の形成機構を理解すること, とりわけ, 未だに謎の多いパルサー風の物理状態を調べることである. パルサー風は, パルサー極近傍の磁気圏と呼ばれる場所で生成されると考えられている. パルサー星雲の観測からは, パルサー風が非常に多くの粒子を伴うことが示唆されている. そのためパルサー磁気圏では, パルサーの持つ大きな電磁場に起因した粒子加速+ガンマ線放射によって, 電磁カスケードが発展して, 大量の電子陽電子プラズマを形成しているはずだが, パルサー磁気圏の電磁場構造が未解明のために, 物理過程としてどの程度の粒子が生成されるのかがわかっていない. つまり, 既存のモデルによる電磁カスケード計算では, パルサー星雲の観測から想定される粒子数を説明できない. これは, 極限状態と言える相対論的磁化プラズマ問題として興味深い問題である. 我々の当該年度の研究成果は, そのパルサー風の粒子数に, 新たに, 観測的な制限を与えたというものである. 具体的には, パルサー風が非常に高密度であるとき, パルサー自身から放射されている電波パルスがパルサー風プラズマの散乱によって自己遮蔽してしまう効果, 特に誘導コンプトン散乱に対するそれを考えて, パルサー風の粒子数に厳しい上限を与え, 論文として発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は目標としていた研究の理解をし, 計算を終えて論文としてまとめることができたので, 順調に進展していると言える. ただし, 現在研究している物理現象に関して, これ以上の研究をするには, 少なくとも私自身の理解の範囲で, この物理現象はこれまでに正しい共通認識が得られているとは言い難い. そのため, 宇宙物理学という私の専門からやや立ち返って, 基礎物理過程の理解, 特に, 複数の分野で違う言葉で表現されているこの現象を理解するという方面に力を注いでいる段階で, まだ当初の計画以上の進展には至っていない.
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Strategy for Future Research Activity |
現在, 研究計画の大きな変更は考えていないが, これ以上の研究を進める上で, 上記のような複数の分野にまたがった同じ現象の基礎物理過程の理解を進める必要があると考えている. そのために, 宇宙物理学上の応用に傾いた次年度の研究計画から, 若干外れることも想定している、基礎物理過程の理解という意味では, 非線形光学やプラズマ物理の分野の研究者と情報交換を行うために, レーザープラズマ関連の研究会などに行く計画である. レーザープラズマの分野では, 地球上でこれまでにないプラズマの極限状態を再現できるとして, 宇宙物理学と関連した非常に興味深い研究がなされているのもその一つの要因である. 一方で, 当初の研究計画にできるだけ支障がでない範囲で, 現在所属する宇宙線研究所で進行中の新しいガンマ線望遠鏡のターゲットとなる天体からの放射を予言するといった研究も進める予定である。これは, これかも宇宙物理学と関わりを持って研究を続けていく上で重要であると考えている.
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