2014 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
13J10447
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 周太 東京大学, 宇宙線研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | パルサー / パルサー風 / レーザー・プラズマ相互作用 / 誘導コンプトン散乱 / 国際研究者交流, ドイツ |
Outline of Annual Research Achievements |
私の研究対象はパルサーと呼ばれる天体で, 強磁場を持ち高速で回転している中性子星と考えられている. 現在我々の銀河系内に2300以上観測されるパルサーは, その回転に起因する非常に正確なパルスを発する天体で, その周期の減速から回転エネルギーを何らかの形で放出していることがわかっている. パルサーはほとんどの回転エネルギーをパルサー風として放出しているが, どのように回転エネルギーをパルサー風に変換しているのかは理解されていない. 本研究の研究目的はそのパルサー風の形成機構を理解することであり, アプローチとして, まだ謎の多いパルサー風の物理状態を観測的に決定することである. 最近の研究では, 誘導コンプトン散乱という物理過程に注目した. この過程は高輝度放射と電子の非線形相互作用で, パルサー磁気圏周辺で期待される. プラズマ物理学の分野では古典電磁気学の範囲で取り扱われていた. 一方宇宙物理学においては, 準古典的に取り扱われており, 非線形段階まで適用可能である. しかし理論上の困難のためにこれまでほとんどの研究では非線形発展に関する議論がされていない. 我々はこの物理現象の非線形段階の発展を記述する方程式の定式化を行った. その研究内容について現在論文を投稿中である. また古典的に取扱いについては, 本年度訪問したドイツの研究者と共同研究中である. また, 共同研究として古いパルサーからのX線放射について研究を行った. 古いパルサーは回転光度が小さいため, 若いパルサーに比べて暗い天体であるが, 幾つかの古いパルサーからはX線放射が観測されている. 観測的にはパルサーのX線放射効率はほとんど年齢によらない. この研究の結果, 古いパルサーでは若いパルサーに比べて効率的な加速が起きていないと, X線の観測を説明できないことを示した。この内容の論文は出版された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は計画していた研究を進めていく過程で立ちはだかった壁があり, 一部当初の計画を変えて新しい方針で始めた研究であったが, 計算を終えて論文としてまとめることができたので, 順調に進展していると言える. 特に, 昨年度進めた研究に関して, レーザープラズマの分野の研究者との共同研究も進行中であり, この面では期待以上と言える. ただし, 一方で進めていたパルサー星雲に関する研究が年度内に論文としてまとめられなかったという点では遅れているので, おおむね順調とした.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度のレーザープラズマ分野の研究者との共同研究を通じて, レーザー実験の方法や実現される状況などいろいろなことを学んだ. これを元に今後はレーザー実験を念頭においた物理的状況での理論的研究を行おうと考えている. これは私がそもそも注目をおいているパルサー磁気圏での研究の足がかりにもなる. 大阪大学レーザーエネルギー研究センターの共同利用・共同研究に申請中である. 今回は理論的研究での申請であるが, レーザー実験の実現のためには, レーザー実験装置を持った研究者に, 誘導コンプトン散乱の実験の意義などを伝える必要がある. レーザープラズマ関連の研究会などへの参加を重ねて, 連携を深めていきたい. パルサー磁気圏での誘導散乱は, やはり上記のような複数の分野にまたがった現象である. 分野間の方法の違いなども含めての基礎物理過程の理解を進める必要があると考えている. 特に, 本年度実現したドイツの研究者との共同研究を進めていくことが重要である. 一方で, 当初の研究計画にできるだけ支障がでない範囲で, 現在所属する宇宙線研究所で進行中の新しいガンマ線望遠鏡のターゲットとなる天体からの放射を予言するといった研究も進める予定である。これは, これかも宇宙物理学と関わりを持って研究を続けていく上で重要であると考えている.
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