2013 Fiscal Year Annual Research Report
内殻分極を考慮したモデルポテンシャル法の開発による水素吸蔵分子材料の理論設計
Project/Area Number |
13J10731
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
松田 彩 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | Pd/Ptクラスター / 水素吸蔵特性 / 量子化学計算 / 電子密度分布 / 相対論効果 |
Research Abstract |
低環境負荷エネルギーとして水素が注目され、水素貯蔵媒体として水素吸蔵金属の開発が求められている。バルクPdは高い水素吸蔵特性を示すが, バルクPtは水素を全く吸蔵しない。近年、水素吸蔵特性の改良を狙って、山内らによってPd, Ptナノ粒子が合成された。Pdナノ粒子は, 期待と裏腹に水素吸蔵特性の低下を招く。一方、Ptはナノ粒子化により水素吸蔵能を示すようになる。これらは、ナノ粒子化によって電子状態が変化したことを示唆する結果である。初年度は、Pd・Ptクラスターに対する水素吸蔵特性の違いを量子化学計算により解析し、その結果を報告する。 本研究では立方八面体のM_<55>クラスター(M=Pd, Pt)をモデルとして、PBEレベルの密度汎関数計算を行った。Pd, Ptクラスターと水素原子の相互作用エネルギー解析の結果、①(111)面からの水素吸蔵が(100)面からの水素吸蔵よりエネルギー的に有利であること、②Pd_<55>の方が安定な水素吸蔵ポテンシャルをもち水素吸蔵に有利であること、③Mss (M=Pd, Pt)いずれについても、クラスター内では八面体サイトが最安定サイトであることの3点が明らかになった。 更にPd_<55>とPt_<55>に対する水素原子の安定性の違いの起源を探るために、先のPd_<55>, Pt_<55>内の水素原子が存在する八面体型サイトを抜き出したモデルについてエネルギー成分分割解析を行った。その結果、PtクラスターはPdクラスターに比べ交換反発エネルギーが大きく、これがPtクラスター内の水素原子の不安定化の主要因であることが明らかになった。Electron localization function (ELF)の解析結果は、Pt系で見られた大きな電子間反発は原子価5d軌道の相対論的膨張によってもたらされたものであることを示す。クラスターの電子状態が、水素吸蔵特性を制御していることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナノサイズの[Pd・Ptクラスターに対する水素吸蔵特性の違い」を量子化学計算によって解析するには、数千電子をもつ多電子系の電子状態計算を達成せねばならない。そこで、初年度は、①「効率的かつ精度よく解明するため、内殻分極項を取り込んだ新しい内殻省略計算法の開発」、②「RI近似を適用した高効率の量子化学計算によるPd・Ptクラスターに対する水素吸蔵特性の解析」を行った。 ①に関しては定式化を行い、現在、プログラム開発をおこなっている。②においては、高効率な量子化学計算を用いることで、ナノサイズ(55量体・直径約1nm)のPd/Ptクラスターの水素吸蔵特性の違いを明らかにした。具体的には、「Pdの方がより有利な水素吸蔵能を有すること」また「Pt内の水素原子の不安定性は相対論効果による電子密度分布の膨張によってもたらされること」が示された。これらは、金属ナノ粒子の水素吸蔵特性が電子状態によって制御されうることを示すものであり、過去の実験的研究で行われた議論を支持する。これらの結果は、水素吸蔵金属材料の設計指針を理論的に導くための知見の1つになると考えられ、現在、成果の論文投稿作業を進めている。以上より、本研究は「おおむね順調に進展している」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、Pd, Ptの合金モデルに関しても水素吸蔵特性を量子化学計算によって解析し、合金化した際の電子状態についても更なる知見を得たい。また、より現実系に近づけるために55量体モデルからさらに原子数を増やした147量体モデルを扱う予定でいる。147量体モデルを計算する上でのボトルネックとして扱う原子数の増加に伴う計算負荷の増大が挙げられる。そこで2年目は合金モデルの水素吸蔵特性解析と平行して、計算負荷軽減を可能にする新たな計算法の開発を行う。ここでは、従来開発されてきたモデル内殻ポテンシャル(MCP)法に改良を加え、高精度かつ高効率な方法を開発する。現在、理論式の導出までは完成しているので、2年目はプログラムの実装を行う。
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Research Products
(8 results)