2013 Fiscal Year Annual Research Report
子どもを世界に導くとはいかなることか-アレント教育論における共通感覚論に着目して
Project/Area Number |
13J10856
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田中 智輝 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ハンナ・アレント / シティズンシップ教育 / 共通感覚 |
Research Abstract |
本研究は、今日の公共性に関する議論に豊かな視座を与えたハンナ・アレントの教育論に着目し、彼女の教育論を公共性論の文脈を踏まえて解釈することを通して、シティズンシップ教育学等の公共性をめぐる今日の議論に新たな視座を与えることを目的とするものである。考察は主に次の三段階を通して行う。第一に、アレントにおける「世界」概念を明らかにする。ここでは特に「人工的世界」を作り出す「仕事work」の働きと、その結果「世界」に付け加えられる制作物に着目し、いかにして「世界」の耐久性と永続性が担保されるのかについて検討する。第二に、アレントが公的世界での自由な言論と活動を可能にするものとして位置づける「共通感覚」について考察を行う。その際、文化的制作物(文化、歴史、法など)に関しての美的判断における「共通感覚」の働きに着目し、「共通感覚」のもつ政治的判断力への契機を明らかにする。そして第三に、これまでの考察を踏まえ文化的制作物への洞察と「共通感覚」の生成との関係について明らかにし、子どもの革新性を損なわず「世界」に導くことがいかにして可能となるのかについての検討に向かう。以上のような考察を踏まえて、文化的制作物への洞察と「共通感覚」との関係、美的判断と政治的判断との関連を明らかにする。さらに、過去の痕跡としての文化的制作物への洞察が子どもを「世界」に導くことといかにして結びつけられるのかを明らかにすることで本研究の目的に応えたい。 初年度にあたる本年度においては、①H. アレントの「世界」概念の検討(日本教育学会、教育哲学会にて研究発表)、②H. アレントの公共性論および教育論をてがかりとしたシティズンシップ教育に関する考察(共同研究での取り組み、および日本シティズンシップ教育フォーラムにおける報告)、③共通感覚論に関する概念史的検討を行うことで、本研究の課題に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、H. アレントに関する研究を中心とした3件の学会発表を行ない、順調に研究成果を挙げることができている。また、それと平行して学内公募プロジェクトにおいてシティズンシップ教育に関する共同研究に取り組み、教育実践についてのインプリケーションを視野に入れた研究を展開することができた。これらの研究成果は、相互に関連する問題圏を構成するものとなっており、H. アレントの思想を踏まえた体系的な教育哲学研究への基礎をなす研究が進められていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度においては、アリストテレスに起源をもつ「共通感覚」概念の系譜についての検討に着手したが、今後この検討を進めるとともに、キケロ、ヴィーコ、カントらの共通感覚論を参照することによって概念史的な考察を試みた。最終的には、こうし検討を踏まえてそれらの系譜にアレントの共通感覚論がいかに位置づけられるのかについての考察を行う予定である。
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Research Products
(6 results)