Research Abstract |
スフィンゴ糖脂質の先天性代謝異常症のファブリー病は,α-ガラクトシダーゼの遺伝子の変異が酵素活性が低下した変異体酵素を生じ,リソソーム内に基質のglobotriaosylceramideが蓄積することにより発症する。本研究では,ファブリー病を発症するヒト酵素の変異体を3種取り上げ,これらの三次元構造を高分解能のX線結晶構造解析で解明した。さらに,変異体の性状の解析と,正常体酵素の三次元構造との比較を行い,遺伝子変異がもたらす三次元構造,性状,病態への影響を蛋白質レベルで解明することを目指した。 α-ガラクトシダーゼの変異体として,古典型のファブリー病を惹起するC142Y変異体,亜型を惹起するM72VとQ279Eの変異体の3種を対象として,2年次の計画を単年度で行った。既に構築してあった変異体酵素の発現系,精製,糖短鎖化,結晶化の手順を用い,変異体の結晶を調製した。シンクロトロン放射光X線を用いて高分解能の回折データを収集し,X線解析による結晶構造の精密化に着手した。また,変異体酵素の性状解析と正常体酵素との比較を進めた。 酵素の性状解析は,動的光散乱法,ゲルろ過法,蛍光基質の加水分解などを指標に行った。その結果,C142Y変異体は活性を全く保持しないこと,M72VとQ279Eの双方の変異体は活性を有するが失活し易いことが判明した。三次元構造では,C142Y変異体の活性部位がチロンシン残基でブロックされている。M72VとQ279Eの変異体の構造は正常体とはほぼ同一で,活性部位から離れた変異サイトに水素結合の差異が認められた。 本研究においては,構造の比較検討のために,アミノ酸配列に相同性が見られる,リソソーム酵素であるヒトのα-ガラクトサミニダーゼとβ-ガラクトシダーゼの発現,試料の精製,結晶化を進めた。なお,詳細な比較検討と,基質類似体との複合体のX線解析が今後の課題となる。
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