Research Abstract |
ポリジエチルシラシクロブタンとポリメタクリル酸のジブロックコポリマーが水面上で形成する高分子単分子膜のナノ構造をX線および中性子反射率法により調査した.特に,単分子膜中で親水鎖が形成する高分子電解質ブラシのナノ構造とその変化に着目し,低分子イオン(塩)の添加が及ぼす効果について検討した.十分に親水鎖が長く,十分に表面圧が高い条件下では,高分子単分子膜は,水面上の疎水層,水面直下の親水鎖の絨毯層,そしてその下の高分子電解質ブラシ層の3層構造を取っている.ここに,NaClを一定表面圧下で添加すると,塩濃度0.2Mまでは疎水層厚が薄くなる,すなわち,膜が2次元的に膨張する傾向を確認した.さらに塩濃度を増加させ,1M程度とすると,膜は再び収縮し,疎水層厚が増加した.このような興味有る現象を世界に先駆け発見したことは,本研究の大きな成果である.詳細な解析の結果,この現象は,高分子ブラシ部分の荷電状態と静電的相互作用によることが明らかとなった.ブラシ鎖上のカルボキシル基の解離度αは,純水中では小さく,高分子鎖上の電荷数はあまり多くない.しかし,ここに塩を添加することにより,αは,系中の小イオンの平均活量係γ_±に反比例して増加するため,ブラシを形成する高分子鎖上の電荷数が増加すると考えられる.その結果,ブラシ鎖間に静電的反発力が作用するために,膜は膨張し,膜厚は減少したと解釈することができる.0.2M以上の高塩濃度では,多くの小イオンがブラシ鎖間に存在し,これらが静電的相互作用を遮蔽するため,膜は逆に収縮したと考えられる.このように,高分子電解質ブラシのナノ構造には,高分子鎖上の電荷数とブラシ鎖間の静電的相互作用が重要な因子であることが明らかとなった.また,中性子反射の測定からは,ブラシ内の小イオンの分布が不均一であることを示唆するデータが得られ,今後の課題として興味深い対象となる.
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