Research Abstract |
本年度は,母子相互作用並びに乳児の成育環境が及ぼす乳幼児の脳機能の発達について,NIRS(近赤外分光法)を用いた乳幼児の脳機能画像計測を中心とした研究を行った。特に,母親(または親密な他者)との社会情緒的相互作用の神経基盤となる脳部位(前頭前野,特に眼窩前頭領域)の活動に焦点を当てて,健常乳児やリスク児(被虐待児,超低出生体重児)の脳機能画像と,成長を遂げた健常成人の脳機能画像との比較を行うことにより,認知・情動に関わる脳機能の発達的神経基盤を明らかにすることを目的とした。 利島・小林・近藤は,乳児が母親や他人と相互作用している際の視覚野の脳活動をNIRSにより計測し,乳児の対人的相互作用時の後頭領域における活動において,母親と他人では右半球における活性化が異なっており,他人に対する後頭領域の活性化が著しいことを認めた。 さらに,利島・小林・近藤は,新生児及び乳児における,母親の母乳や人工乳のニオイに対する眼窩前頭領域の活動のNIRSによる嗅覚刺激の比較検討をしたところ,母乳や人工乳の哺育経験に関係なく,母乳に対して脳の活性化が顕著に生じること,しかし,人工乳哺育群以外は人工乳に対しては活性化が低いことが認められた。 被虐待児として施設に保護されている乳児が女性顔を観察している際の前頭前野の活動における発達的変化について,被虐待児の脳機能発達という側面から顔の視覚的クオリアの処理能力を,3ヶ月毎9ヶ月齢までのNIRSの縦断的変化を測定した結果,3ヶ月齢では無表情の女性顔刺激に対する前頭領域の活性化に左右差が認められたが,月齢を追ってその左右差がなくなる傾向が認められた。同時に笑い表情の女性顔刺激に対しては左右差はなく,表情顔のクオリアの発達差を認めた。
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